agitato
[事情と情事]祐巳side




解らない。

どうしたらいいんだろう。
祐巳には、聖さまがどうしてそんな事を云うのかが、解らない。




…そう、思っていた。

でも、それは違う。
祐巳が、目を逸らしていたから、気付けなかった…だけ?






「ねぇ…祐巳ちゃんにとって、私は、何?」

ゆっくりと、本当にゆっくりと、体を横たえられる。
そして、見えない位置から、そう聞かれた。

何…って…


本当は、何をどうしたいの?
私は、何?



聖さまから囁かれた言葉は、囁かれたにも関わらず、祐巳に重く圧し掛かってきて。

何…って…


聖さまは、祐巳の大事な人。
誰も聖さまの代わりにはならないし、なれない。

何をどうしたい…

…ただ、触れたい。

でも、聖さまはそれを信じてくれないみたいで。

そう、ただ触れたいのに。
祐巳だけが聖さまに触れられるんだから。

祐巳だけが…


……?
なんだろう…急に、何かが引っ掛かった。





「祐巳ちゃんは…誰の事、考えてる?」
「だ、誰って…」

聖さまの事に決まってる。
どうしてそんな事を聞くのか解らない。

「聖さまの事です…」
「……嘘、だね」


なんで?
どうしてそんな風に云われなくちゃいけないの?

「なら、どうして、祐巳ちゃんだけが出来る事、なんて云うの?誰かと自分、比べているのは何故?」
「…え……っあ…!」

きゅ、と胸の先を摘まれて、祐巳は思わず体を竦ませてしまって、声が漏れた。

頭に霞が掛かり出す。

考えなきゃいけないのに。
聖さまが、どうしてそんな事を云うのか。
祐巳の言葉を否定して、目を逸らしてしまうのか。

祐巳から…離れていこうとしたのか。
それが何故今、また祐巳を聖さまの下に組み敷くのか。

…考えなきゃ。


「私…は…っ…」


やわり、と胸を揉まれて、舌が痺れ出す。
言葉がうまく発せられない。


「…考えるな、なんて無理だって、解っているんだ。でも…」

リズミカルに揉まれ、またあられもない声が上がりそうになった。


「私と、比べたりしなかった?」
「…っああ!」

胸を強く引金が引かれたような衝撃を感じた。


聖…さま?

「あとは…栞の事」

ドキン、と心臓が大きく跳ね上がる。

栞…さん…


その名を聞くと…辛い。
しかも聖さまの声で聞くと…尚更で。

「あ…っ、や、やだ…」

お願い…今、祐巳に触れながら、栞さんの名前を云わないで。

祐巳だけの事を考えて。



「…あ…っ!」

今、薄っすらと…聖さまの言葉の意味がつかめた。


「聖…さまっ」

聖さまの云う通りだった。
祐巳は、比べていた。

祐巳を惑わせる…聖さまの手と。
聖さまの心を一時でも、奪っていた、栞さんと。

「あ…っ…ああ…っ」

聖さまの手の動きが、急に強くなった。
肌を滑る唇に、どうしようもなくなってくる。
聖さまの肩に手を回して、それを伝えたい。





「ふ、あ…んっ」

こんな風に…祐巳を感じさせる聖さまのように、祐巳も聖さまを感じさせたいって思った。
聖さまの心を奪ったあの人に、負けたくないって、思った。


…それは、聖さまにはお見通しだったのだろうか。



『…私は、祐巳ちゃんが本気で私にしたいというのなら、いい。今すぐにでも、足だって開けるよ。でも…違うでしょ?』



祐巳は本気で聖さまにしたいって思ってる。
聖さまを欲しいって。

でも…


「せ…さま…っ」


でも、聖さまみたいにしたい、とか、あの人に出来ない事をしたいとか…そういう気持ちは…確かにあったかもしれない。

聖さまが怒るのは…当然かもしれない。
祐巳が聖さまを気持ちよくしてあげたいと、祐巳の全部で聖さまを愛したいって、思っていたはずなのに…
何処でどう変わっていたんだろう…

「せ…い…さまぁ…っ」

聖さまの手と唇が、祐巳を高みへと誘う。

祐巳を…祐巳だけを見て、欲してくれる人。
なのに祐巳は…


「せい…さま…あっ」


聖さまの髪に指を絡ませる。
すると、聖さまが祐巳に顔を寄せてきた。

「好き…っ…だから…怖かった…から…っ」

聖さまを祐巳だけのものにしたくて。
あの人の所へ、二度と心が向かってしまわないように。

だから、聖さまが欲しかった。




触れてほしい。
祐巳は、聖さまだけのもの。

聖さまは…?

「私も、好きだよ…だから…怖い。私には、祐巳ちゃんだけだから」

さっきの、冷たいような、色のないような聖さまじゃない、柔らかくて、少し切羽詰ったかのような声。
体の中心から、入り込んで来るような…そんな気がしてしまった。

もう、我慢出来ないような感じ。
聖さまが、欲しいと云っている。

「聖さま…っ欲し…っ」

思わず口から零れた言葉に、聖さまが驚いたような目をした。
なんだか…物凄い言葉を云った気がする。

でも、いい。
聖さまが、欲しい。
聖さまを、欲しい。


体の、一番敏感なところに聖さまの指が触れて…祐巳はどうしようもない気持ちになってしまう。
そして、はしたないと思いながら…堪える事が出来なくて、声を上げた。



聖さまが、欲しい。
欲しくて、欲しくて…


「祐巳ちゃ…!」

祐巳は手を伸ばして、聖さまの髪に指をしのばせる。
そして、祐巳から唇を重ねて舌を絡めた。

「…ふ」

小さく声を漏らす聖さまに、祐巳はもっと、というように舌を絡めた。



…to be continude


20050702