agitato
[事情と情事]祐巳side
8
解らない。
どうしたらいいんだろう。
祐巳には、聖さまがどうしてそんな事を云うのかが、解らない。
…そう、思っていた。
でも、それは違う。
祐巳が、目を逸らしていたから、気付けなかった…だけ?
「ねぇ…祐巳ちゃんにとって、私は、何?」
ゆっくりと、本当にゆっくりと、体を横たえられる。
そして、見えない位置から、そう聞かれた。
何…って…
本当は、何をどうしたいの?
私は、何?
聖さまから囁かれた言葉は、囁かれたにも関わらず、祐巳に重く圧し掛かってきて。
何…って…
聖さまは、祐巳の大事な人。
誰も聖さまの代わりにはならないし、なれない。
何をどうしたい…
…ただ、触れたい。
でも、聖さまはそれを信じてくれないみたいで。
そう、ただ触れたいのに。
祐巳だけが聖さまに触れられるんだから。
祐巳だけが…
……?
なんだろう…急に、何かが引っ掛かった。
「祐巳ちゃんは…誰の事、考えてる?」
「だ、誰って…」
聖さまの事に決まってる。
どうしてそんな事を聞くのか解らない。
「聖さまの事です…」
「……嘘、だね」
なんで?
どうしてそんな風に云われなくちゃいけないの?
「なら、どうして、祐巳ちゃんだけが出来る事、なんて云うの?誰かと自分、比べているのは何故?」
「…え……っあ…!」
きゅ、と胸の先を摘まれて、祐巳は思わず体を竦ませてしまって、声が漏れた。
頭に霞が掛かり出す。
考えなきゃいけないのに。
聖さまが、どうしてそんな事を云うのか。
祐巳の言葉を否定して、目を逸らしてしまうのか。
祐巳から…離れていこうとしたのか。
それが何故今、また祐巳を聖さまの下に組み敷くのか。
…考えなきゃ。
「私…は…っ…」
やわり、と胸を揉まれて、舌が痺れ出す。
言葉がうまく発せられない。
「…考えるな、なんて無理だって、解っているんだ。でも…」
リズミカルに揉まれ、またあられもない声が上がりそうになった。
「私と、比べたりしなかった?」
「…っああ!」
胸を強く引金が引かれたような衝撃を感じた。
聖…さま?
「あとは…栞の事」
ドキン、と心臓が大きく跳ね上がる。
栞…さん…
その名を聞くと…辛い。
しかも聖さまの声で聞くと…尚更で。
「あ…っ、や、やだ…」
お願い…今、祐巳に触れながら、栞さんの名前を云わないで。
祐巳だけの事を考えて。
「…あ…っ!」
今、薄っすらと…聖さまの言葉の意味がつかめた。
「聖…さまっ」
聖さまの云う通りだった。
祐巳は、比べていた。
祐巳を惑わせる…聖さまの手と。
聖さまの心を一時でも、奪っていた、栞さんと。
「あ…っ…ああ…っ」
聖さまの手の動きが、急に強くなった。
肌を滑る唇に、どうしようもなくなってくる。
聖さまの肩に手を回して、それを伝えたい。
「ふ、あ…んっ」
こんな風に…祐巳を感じさせる聖さまのように、祐巳も聖さまを感じさせたいって思った。
聖さまの心を奪ったあの人に、負けたくないって、思った。
…それは、聖さまにはお見通しだったのだろうか。
『…私は、祐巳ちゃんが本気で私にしたいというのなら、いい。今すぐにでも、足だって開けるよ。でも…違うでしょ?』
祐巳は本気で聖さまにしたいって思ってる。
聖さまを欲しいって。
でも…
「せ…さま…っ」
でも、聖さまみたいにしたい、とか、あの人に出来ない事をしたいとか…そういう気持ちは…確かにあったかもしれない。
聖さまが怒るのは…当然かもしれない。
祐巳が聖さまを気持ちよくしてあげたいと、祐巳の全部で聖さまを愛したいって、思っていたはずなのに…
何処でどう変わっていたんだろう…
「せ…い…さまぁ…っ」
聖さまの手と唇が、祐巳を高みへと誘う。
祐巳を…祐巳だけを見て、欲してくれる人。
なのに祐巳は…
「せい…さま…あっ」
聖さまの髪に指を絡ませる。
すると、聖さまが祐巳に顔を寄せてきた。
「好き…っ…だから…怖かった…から…っ」
聖さまを祐巳だけのものにしたくて。
あの人の所へ、二度と心が向かってしまわないように。
だから、聖さまが欲しかった。
触れてほしい。
祐巳は、聖さまだけのもの。
聖さまは…?
「私も、好きだよ…だから…怖い。私には、祐巳ちゃんだけだから」
さっきの、冷たいような、色のないような聖さまじゃない、柔らかくて、少し切羽詰ったかのような声。
体の中心から、入り込んで来るような…そんな気がしてしまった。
もう、我慢出来ないような感じ。
聖さまが、欲しいと云っている。
「聖さま…っ欲し…っ」
思わず口から零れた言葉に、聖さまが驚いたような目をした。
なんだか…物凄い言葉を云った気がする。
でも、いい。
聖さまが、欲しい。
聖さまを、欲しい。
体の、一番敏感なところに聖さまの指が触れて…祐巳はどうしようもない気持ちになってしまう。
そして、はしたないと思いながら…堪える事が出来なくて、声を上げた。
聖さまが、欲しい。
欲しくて、欲しくて…
「祐巳ちゃ…!」
祐巳は手を伸ばして、聖さまの髪に指をしのばせる。
そして、祐巳から唇を重ねて舌を絡めた。
「…ふ」
小さく声を漏らす聖さまに、祐巳はもっと、というように舌を絡めた。
…to be continude
20050702