BlueFriday
ピンポーン
私は真夜中に鳴ったインターホンに一体誰が…と思いながら応答して、そこから聞こえてきた声に驚いて玄関に飛んでいった。
こんな真夜中に聞こえる筈のない声。
聞こえてきては、いけない声。
でもその声は私の名を呼んだ。
私を、求めている。
ごめんなさい、と云いながら。
「どうしたの祐巳ちゃん!どうして!」
ドアを開いてその姿を確認して。
そこにいるのが確かに祐巳ちゃんである事に、動揺している。
「聖、さま…ごめんなさい…こんな時間に…」
「…おいで」
こんな処で話すのも、莫迦だ。
私は自分を落ち着かせる様にそっと息を吐いて、そして祐巳ちゃんの手を引いて部屋に入った。
ソファに座らせて、丁度淹れていたコーヒーにミルクと砂糖を多めにして祐巳ちゃんに手渡す。
さっき握った手が、震えていたから。
「…来てくれたのは、嬉しいよ。でも…こんな真夜中にひとりでここまで来るのは、ちょっと感心しないな…駅から電話くれたらよかったのに」
「…ごめんなさい」
「怒ってるんじゃないよ。夜道は危ないから…何が起こっても不思議じゃないから」
「…ごめん、なさい…」
ぽと、と言葉を落とす。
それに私はぽんぽんと頭を軽く撫で叩く。
「…祐巳ちゃん…小母様達には?」
この調子で云ってきている筈はないと思いながらも聞く。
案の定、首を横に振った。
「…もう、眠ってるから…」
「だから、黙ってきたの?」
「……だって」
ぷ、と頬を膨らます仕草を見せて、祐巳ちゃんは俯く。
「だって…聖さま、試験で…最近全然逢えてない…から…だから…」
「…え」
「試験、昨日で終わったはずなのに…ずっと待ってたのに…」
顔が歪みそうになるのを、堪えている。
わざと怒ったような顔をして、祐巳ちゃんが言葉を紡ぐ。
昨日で試験は終わった。
今日から試験休みに入ったので、私は爆睡してしまっていた。
実際、起きたのは夕方だった。
明日は土曜日だから、祐巳ちゃんの顔を見に行こう、なんて思っていた私は、私を待っていてくれていた祐巳ちゃんに…明日まで待てずにこんな夜中にも関わらず来てくれた祐巳ちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ずっと…逢いたかったのに…」
私は、祐巳ちゃんの手はマグカップを取り上げてテーブルに置いた。
そして、祐巳ちゃんの体を掻き抱いた。
「私が悪いね…」
さっきと、逆転になってしまった。
ごめんね、と囁きながら抱きしめる腕の力を少し強める。
段々と試験のために封じ込めていたらしい自分が顔を見せ出す。
もう、冷静ではいられない。
「祐巳ちゃん…泊まっていくよね」
「…はい」
「っていうか、帰せないし」
こんな夜中に送り届けるのもちょっと…なんてね。
「私もね、祐巳ちゃん欠乏してるから。だから…いい、よね?」
「…そのつもりで来ましたから」
幸い明日は土曜日。
寝かねてあげられないかもしれないけど。
後書き
執筆日:20040908
なんか、いや、ほんとに。
ねぇ?