agitato
[アジタート:激情的に]
-事情と情事 祐巳side-
6
もうどうしようもなくて。
ただただ、触れたい。
私は、貴女に触れたい。
だって、好きだから。
聖さまが、好き…だから。
だから、触れたい。
お願いです…解って、下さい。
「すき…だから…したいんです」
そう告げて…解ってほしい気持を込めて、唇にそっと唇を重ねた。
そして、ゆっくりとその滑らかな肌に手を滑らせていく。
すると息を飲むように聖さまの舌がぴくりと動いて。
重ねている唇の間から、微かな声が洩れた。
その途端、なんともいえない気持が祐巳を襲う。
好き…どうしようもないくらい、好き。
聖さまがいつも祐巳にするように、親指で胸の先を触れながら、ゆっくりと胸のふくらみに力を加えてさするように撫であげる。
「聖さま…」
小さく声を漏らす聖さまに、愛しさでいっぱいになる。
もっと、もっと祐巳に知らない聖さまを見せてほしい。
祐巳だけに。
他の人になんて見せなくていいから、祐巳だけに見せてほしい。
細い首筋から綺麗に浮いた鎖骨へと、舌を這わせていく。
そして…ゆっくりと胸へと。
聖さまは眉を寄せて何かに耐えるような表情を浮かべている。
その中に、艶やかな何かが見え隠れしていて。
祐巳はその何かが見たい。
そして知りたい。
見せてほしい。
教えてほしい。
お願い。
ゆっくりと手を滑らせながら軽くその肌に歯をたてる。
そして、唇が柔らかい胸にたどり着いた時、聖さまが息苦しそうに呟いた。
「…ダメだって…もう、やめ…」
…嫌。
絶対、やめない。
聖さまだって、祐巳が「やめて」って云っても、止めてくれないじゃないですか。
…もちろん、祐巳はホントにやめてほしい訳じゃない。
恥ずかしくて、怖くて…つい云ってしまう。
もしかして、聖さまはホントに止めてほしいのかな…もし、そうだとしたら…
…でも。
祐巳は、聖さまの胸の先の…部分に唇で触れた。
「く…!」
聖さまが、何かを我慢する様な声を漏らして、祐巳の肩に手を伸ばしてきた。
肩を包むように掴んで、唇を噛んでいる。
目を上げて聖さまを見ていると…酷く…艶めかしい表情になっていて。
思わず、祐巳は唇で触れていた胸の先を口に含んでしまう。
すると、聖さまはギュッと目をつぶってしまった。
唇を噛んで、何かを耐えて。
ドキドキする。
もう、祐巳の心臓は毀れてしまうんじゃないかってくらい、ドキドキしてる。
「聖さま…好き」
本当に、どうしようもないくらいに、好き。
もっともっと、いろんな聖さまの顔が見たい。
見せてほしい。
本当に。
だから、祐巳はいつも聖さまにされているように、手を動かしていく。
そう、ゆっくりと。
脇腹に手を滑らせていこうとした。
その時、急に聖さまが祐巳の肩をグッと掴んで引き寄せた。
「きゃ…っ!」
背中に、衝撃。
…とは云っても、柔らかな衝撃。
…え?
いったい、なにが起こったの…?
気がつくと、祐巳は聖さまを見上げていた。
背中には、シーツ。
聖さまの表情は、何かに耐えているような、焦っているような…そんな表情で。
瞳は…潤んで揺れていて。
「もう、許さない…」
…え…?
「聖さ…っ…ん…っ!」
荒々しく、唇を奪われて、息が止まる。
きつく、まるで呼吸するのも許されないみたいに、舌を吸われてしまって。
祐巳は息苦しさに、思わず聖さまの腕に爪を立ててしまって、ハッする。
駄目、聖さまを傷付けちゃう…
パッと手を放した祐巳に、まるでそんな事は対した事じゃない、というように聖さまは唇を離すとフッと笑いを漏らした。
そして、角度を変えて再度口づけてくる。
なんだか、怖い。
いつもの聖さまとは違う。
荒いキス。
まるで舌を噛み切られてしまうんじゃないか、なんて思うほど、キツく吸われ、絡め取られている。
でも、祐巳に触れる指はいつも以上に優しい。
毀さないように、傷付けないように、とでも云うように触れてくる。
そのギャップに、祐巳は翻弄されてしまう。
唇が、解放されない。
絡められる舌に溢れてしまう唾液が、口の端から流れ落ちるのを感じて、恥ずかしくなってしまう。
でも…どうしようもなく、高まってしまう。
『求められてる』って思ってしまう。
ずるい。
こんなの、ずるい。
聖さまに比べたら、祐巳なんて…
でも、祐巳だって聖さまを…
指が、肌を這う。
滑るように、こねるように。
そんな動きに、どうしようもなくなっていく。
息もつけない。
舌を捕らえられて、体にはもう力も入らない。
そして、するり、と足の付け根に指が滑る。
でも…敏感な所には触れずに。
焦らすように、更に高めるように指が滑っている。
「い…やぁ…」
それが切なくて、やっとのことで顔を背けて唇から逃れた。
そして聖さまの手から逃げようと体を浮かす。
でも、聖さまは逃がしてくれない。
甘く掠れた声で「ダメ」と云う。
「…逃がさない」
ゾクリと、肌が粟立つ。
そんな声で云われて、逆らえる訳がない。
甘くて、それでいて、逆らう事を許さない声。
祐巳は、聖さまに敵わない。
でも…祐巳ばかりじゃなく、祐巳だって、聖さまを愛したいのに。
思わず、恨みがましい目を向けてしまう。
「ず…る…い…」
呟くと、聖さまは苦く笑ってまぶたやらこめかみやらにキスをくれる。
「うん…ズルいんだ…私は」
本当に、ずるい。
そんな風にして、こんな風に優しくして。
優しくて、激しい。
「わ…たし…ばっかり…や…」
祐巳ばかりが、聖さまに追い上げられて…切ない。
「…祐巳ちゃんばかり…じゃないよ」
ふっ、と祐巳から目を逸らすとそう呟いた。
祐巳ばかりじゃない…って?
だって、祐巳を追い上げて、焦らしているのは聖さまなのに…?
聖さまの不思議な言葉に気を取られたのを見計らったかのように、聖さまが祐巳の膝に手を掛けた。
ドキン、と心臓が大きく跳ね上がる。
何故か解らない。
でも、聖さまが何をしようとしているのか、解った。
怖い…!
「せ、聖さま…っ!ヤダ…ッ」
膝に掛けられた手に、力が込められる前に、祐巳は膝を閉じる。
だけど…もう祐巳の体は、聖さまの力には敵わない。
キスで、手の動きで、体に力が入らないから。
ヤダ…、嫌だよ聖さま…!
でも…祐巳のお願いは、きっと聞き入れてもらえない。
声が、出ない。
でも目で、遮ろうとする手の動きで訴える。
「やぁ…っ!」
「…ごめんね」
謝らないで。
謝るのなら、やめて…!
難なく、足が開かれてしまう。
恥ずかしい…!
顔から火が出そう。
聖さまを見られない。
だって…開かれてしまった足の…
え?うそ…!
ヤダ…やめて、聖さま!
「ダメ…ッ!いやぁ!」
祐巳は聖さまの髪に指を沈めて引き離そうとするけれど…
初めての衝撃的な出来事に、体も気持もついていけなくて。
恥ずかしい
怖い
…信じられない
聖さまの行動に、祐巳の心がついていけない。
どうして、そんな事が出来るの?
恥ずかしくて、心臓が毀れてしまいそう。
恥ずかしくて、消えてしまいたい。
堪えたいのに、声が漏れてしまう。
はしたない…って思うのに、我慢出来ない。
体が、反応してしまう。
「もっと、感じて?」
これ以上無理。
心臓が本当に毀れてしまう。
でも、聖さまは祐巳を更に追い上げる。
怖い
怖い
祐巳が、祐巳でなくなってしまいそうで…怖い
「せ…い……さまっ」
こわい
ひとりは、いや
いっしょじゃなきゃ、いや
ゆみだけなんて、いや
たすけて…!
「聖さま…!」
も…ダメ…っ
そこで、強い刺激に襲われて…真っ白になった
…to be continued
20050625