agitato
[アジタート:激情的に]
-事情と情事 祐巳side-




聖さまを、祐巳に引き寄せて。

もっと、もっと側に来て。

そうして…溶け合ってしまえばいい。








祐巳の内で蠢く聖さまの指に、どうしようもないほどの切なさが溢れ出す。

「ふ…ん…んん…」

重ねた唇からは、押さえきれない声が漏れてしまう。
でも、聖さまから離れたくない。




聖さまの髪に指を絡ませて、頭を抱きしめるみたいに。
だから唇が深く重なって。
体も…密着していて。
聖さまの長くて細い指は、祐巳の内深くを犯して。

離れたくない。
離したくない。

絡めあう舌に、聖さまの呼吸も、熱く速くなっていて。
ふ、と唇を離した時の吐息が、熱い。
角度を変えて重ねると、眉を寄せてほんの少し顎を引く。
それが…酷く艶めかしくて。
そして祐巳の内の指に、微妙な角度がつけられて…その刺激に腰が浮いてしまいそうになる。
聖さまはそれを察知したのか、強く刺激してきた。

「やぁっ!ダメ…!」

離れたくないのに、腰が浮いてしまう。
聖さまの指から、逃げようとしてしまう。

ヤダ…っ

何をどうしたのか、解らない。
でも、祐巳の内が何かの変化をもたらしたのか、聖さまが「ん…」と眉をしかめた。

「キツ…」

え…?
何が…?

解らなくて、聖さまの顔を見る。
すると酷く艶めかしい微笑みを祐巳に向けた。

「…いい?」

ぞく、と背筋に震えが走るほどの艶めかしさ。
思わず、祐巳は聖さまにしがみついた。

聖さまが、欲しくて。
もっと欲しい。
まだ、足りない。

聖さまの背中からおしりへのラインを指で辿る。
綺麗な、曲線。
こくり、と聖さまが息を飲んだ音が耳に聞こえた。
敏感になっているんだって、解る。
抱き合って、口付けて…それだけでも、聖さまは祐巳に反応して高まってくれている。
思わず、もっと、と思ってしまう。
もっと祐巳に感じてほしい。
聖さまの全てに追い上げられ、どうしようもなくなっている祐巳みたいに。

祐巳も、聖さまを愛したい。

どうしようもなく切なくて、祐巳は聖さまの背中に腕を回してしっかりと抱きしめた。

…それで、知ってしまった。

ぴたりと、張り付く肌と肌に、どうしても遮られてしまう悲しさ。
どうしても、どうあっても、これ以上は聖さまに近付けない。

「…ひ」

涙が、溢れてくる。
それまでも聖さまの指に翻弄されて、抑えられない涙が零れていたけれど…

聖さまにも、祐巳の涙を気付かれてしまったのか、指の動きが止まった。

「…祐巳、ちゃん?」

どうしたの、と濡れた瞳が祐巳を覗き込む。
その瞳に心臓が大きな音を立てた。

愛しい。
本当に、どうしようもなく。
なのに、悲しい。

…聖さまも、こんな風に思うのかな。

祐巳は聖さまに噛み付くように接吻する。

少しでも、重なっていたい。
少しでも、交わっていたい。

聖さまを身の内に感じて、聖さまにも、祐巳を感じてほしい。
祐巳の内に聖さまの指を感じながら、祐巳は聖さまの舌を愛撫する。

「…ん…っ!ゆ、み…っ」
「もっと…聖さまが…欲し…いんで…す…もっと…愛して…っ」

そう云って、聖さまに唇を重ねる。
すると、聖さまが祐巳の内の指をおずおずと動かし出す。
ぞくぞくするほどの疼きが背筋を走っていく。

「祐巳…ちゃん…っ」
「いや…っ」

離れるのは、嫌。
吐息を漏らすためにほんの少しでも、唇が離れる事さえ、許せない。
聖さまの指に堪えきれなくなる声を漏らすために唇を離すのも、嫌。

「ふ…っんんっ」

痛いくらいの、鼓動。

このまま、どうにかなってしまうんじゃないかと、思う。

もう、ダメ。
耐えられない。
離れたくないのに。
離したくないのに。

聖さまの唇を解放する。

途端に熱い吐息を聖さまが漏らす。
その吐息に、祐巳はまるで閉じ込められていた何かを解き放つように声を上げた。

「あ…ああっ」

背筋が、反って。
足が、更に開かされて。

でもそうする事によって、聖さまの指が祐巳の更に置くまで進められて。
意味の無い、言葉にならない声がとめどなく溢れて。

「いや…聖…っ…離れて…いやあっ…やぁ…」

聖さまの背中に、汗が浮かんでいて、手が滑ってしまう。
耳に、熱に浮かされたような聖さまの祐巳を呼ぶ声。

聖さまを呼ぶ祐巳に、荒々しく重なってきた唇に安堵と不安が交差する。

意思に反して、震え出す体。
聖さまが、指の動きを速めていく。
揺れ動く腰を、聖さまの動きに合わせていきながら、祐巳は聖さまの背中を更に強く抱きしめた。






「……」

感覚のない腰と、唇。

今はもう、祐巳の内に聖さまはいない。
でも…キスをやめる事は、出来なくて。
ベッドに体を横たえている聖さまの上に覆いかぶさるように、祐巳は聖さまの唇を愛撫する。

「…ん」

聖さまの声が、漏れる。
それが、艶めかしくて…

好き。
どうしようもないくらい好き。

少しでも感じてほしい。

瞳は、潤んでいる。
その潤んだ瞳が、祐巳を見る。

「…好きです…聖さま」

そっと唇を離して囁く。
欲しくて、たまらない。

祐巳の全部で、聖さまを愛したい。






「…好き…」



でも、どうやったって、祐巳と聖さまは、別個の人間だから。
だからこそ、離れたくないと思ってしまう。



「好き…」

紅く濡れた唇に囁く。

もっと、もっと言葉を伝えたい。
もっと、もっと…口付けたい。
もっと、触れたい。
聖さまの、全てに。

この身の内に、分け入ってきてほしいと、願わずにいられない。
貴女の、その身の内にまで、分け入りたいと…願わずにいられない。

少しでも、聖さまと、重なっていたい。


「もっともっと…聖さまが欲しい…」



聖さまが、潤んだ瞳のままに、祐巳を見つめていた。




…to be continued


20050703


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