(聖祐巳)




降り出した雨に溜息をつく。

やっぱり降ってきた…

祐巳の天気予報は当たる。
雨の日限定だけど。

理由は、髪が湿気を吸うからか、まとまり難くなるから。
今日の朝も、髪がまとまらなくていつもの倍の時間が掛かってしまった。

だから、今日の祐巳のかばんの中には折りたたみの傘が入っている。

バス停まであと少しだけど、でもバスが来るまでにはまだ時間がある。

再度溜息をついて、祐巳はかばんから傘を取り出した。

「祐巳ちゃん!ナイスタイミング!」

傘を開いた瞬間、その傘を後ろから伸びてきた手に奪われる。

こんな事をする人は、一人しかいない。

「聖さま!」
「さすが祐巳ちゃん、用意がいいねー」
「…今朝は髪がまとまらなかったので…一応」
「お、祐巳ちゃんの雨天レーダー健在、か」

でも助かった、と聖さまが笑う。

青い祐巳の傘を聖さまが持って、相合傘。
聖さまと相合傘をする率は高い。

祐巳より背が高い聖さまがいつも傘を持ってくれる。

そうすると、必然的に聖さまの傘を持つ手と、祐巳の肩が触れ合う。

その距離が、なんとなく気恥ずかしい。

「ほら、もう少しこっち。濡れちゃうよ」

そう云いながら、傘を祐巳に傾けてくれる。

「ダメですってば、今度は聖さまが…」
「じゃあ、もう少しこっちに来て」

そ、そんな事云われても…と呟くと、聖さまは「あーもう!」と云いながら傘を持っていない右手で祐巳の右手を引いた。

「ひゃあ!」
「ほら、私の左腕に手を掛けて」
「…へ?」

思わず間が抜けた声を上げてしまった。
けれど直ぐにその言葉の意味が解る。

「…ええ!?」
「ほら、早く。濡れちゃうって」
「は、はぁ…」

祐巳は、意を決して聖さまの左腕にしがみついた。

ど、どうしよう…

頬が熱い。
きっと物凄く真っ赤だと思う。
見られるなら鏡を見たいくらい。

端から見れば、仲良く腕を組んで相合傘、なんだろうけど。

聖さまの顔を盗み見ると、涼しい顔をしていて。
なんだか、祐巳ばかりがドキドキしているんだと思うと無性に腹が立ってきた。

ぎゅっ

祐巳は聖さまの腕のしっかりとしがみついてみた。

すると、ちょっと驚いた様に祐巳を見て、直ぐ前に視線を戻す。

それで、気付いてしまった。

なんだ、聖さまも恥ずかしいんだ。



驚いた顔をした後、サッと頬に赤みが差したのを見逃さなかった。



後書き

20040626

思い切り、短いです。
祐巳ちゃんのモノローグだけですか?私。
でも聖さまはこんな事では紅くなんてならないよねぇ…
すいませんドリーマーで。
でもあのオヤジの影に隠れた純情、みたいなのを聖さまには期待していたり(笑)

いいの、夢見がちでも。





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