不意打ち




何気無いやり取りに、弱かった。

だって…もう絶対に私は貴方に敵わない。








「ど、何処まで!?」
「はぁ…」

何がそんなに可笑しいのか、聖さまは体をふたつに折って息も出来ない位に笑っている。

今日の帰りに由乃さんに云われた事を聖さまに掻い摘んで話しただけなんだけど…

「ふっ…くくく…く…」

まだ笑ってますよ、この人。

祐巳のクッションを抱えて床に転がって笑い続けていますけど、もうかれこれ5分になろうとしてます。
お腹、筋肉痛になりますよ?聖さま?
お母さんが部屋にやってきて、そんな処見られたら、お母さんの中の元『白薔薇さま』のイメージ崩れますよ?

「あーダメだ、可笑しい…」
「何がそんなに可笑しいんですか…」

いい加減、祐巳も呆れてきてしまう。
だって、ただ帰り道で夏休みの予定が話題に上がったってだけですよ?
それなのに、どうしてこんなに笑えるんでしょうか。

「何処までって…解ってて云ってるのかね、由乃ちゃんは…」

目尻に溜まった涙を指で拭いながら聖さまは漸く落ち着いたと云う様にアイスティーを一口飲んだ。

「何処までって云っても、私と聖さまはそんなに出掛けませんしねぇ…あ、この間海に行きましたけど」

祐巳はアイスティーのグラスについている水滴を指でなぞりながら呟いた。



ガタン!



「聖さま、どうかしましたか?」

テーブルに突っ伏した聖さまに祐巳はちょっと驚いた。
ガタン、って…聖さま、おでこをテーブルにぶつけたんじゃないかな?

「ゆ、祐巳ちゃん…それ、冗談じゃないよ…ね?」
「冗談?だって、聖さまのお部屋にお泊りしても出掛けたりしないじゃないですか」

ゆっくりと顔を上げて、聖さまは信じられないものを見るような目で祐巳を見る。
あ、やっぱりちょっとおでこ赤くなってますよ、聖さま。

はぁ〜っ、と、聖さまは大きな溜息をつくと、アイスティーを一口飲んだ。

「聖さま?」
「あのさ、祐巳ちゃん…それ、由乃ちゃんに云わなくて良かったね…」
「へ?」
「いや、むしろ云った方が良かったのかな…」

聖さまが苦笑しながら祐巳を見る。

なんだろう。
何か可笑しな事を云ったんだろうか…

「何故私が驚いたか、知りたい?」

聖さまが祐巳の頬をツン、と突付きながら云う。

「はい…」

それじゃ…と聖さまは少し祐巳に近付いて、声のトーンを落とした。

「由乃ちゃんが云った『何処まで』ってのはさ?何処かに行ったとかじゃなくてね?」
「え、違うんですか?じゃあ…?」

何なんですか?と聞こうとした、その時。


「…!」

スッと顔が近付いて、聖さまの唇が祐巳の唇を掠めていった。

「せ、聖さまっ」

祐巳の部屋では、あまりこういう事はしない。
いつお母さんや祐麒が部屋に来るか解らないから、という聖さまの配慮で。

「解らない?由乃ちゃんの云った『何処まで』って」

聖さまが悪戯っこの様な目で云う。

え?え?

「私と、祐巳ちゃんがどんな事までしてるかって、聞いたんだと思うけど?」
「どんな…って…え、ええぇっ!?」

ぶわッと顔が赤くなる。

それって、それって…!

言葉が出て来なくて、祐巳は金魚みたいに口をパクパクする。

「うん。キス位してるのか、それ以上までしてるのか、って事かな」

さすが聖さま。
祐巳の云いたい事が解っていらっしゃる。

って、ちょっと待って!
そんな事聞いて、由乃さんはどうするつもりだったの!?

「でも、祐巳ちゃんが由乃ちゃんの言葉の意味に気付かなくて正解だったかなー」
「…何故ですか…」
「だって」

聖さまは真っ赤になっている祐巳に更なる爆弾を投下して下さった。

「そんな真っ赤になってる祐巳ちゃんを見たらさ?解っちゃうよ?」
「何がです…」
「誰にも知られていない様な、いや、自分でも知らない背中や腰にあるほくろの位置が解る様な事してるって」
「!」



頭から湯気が立ち上らんばかりに真っ赤になってしまって、使い物にならなくなってしまった祐巳に、聖さまが慌てたのは云うまでも無い。



後書き

執筆日:20040925

全く何書いているんでしょうかねー
聖さまは旅行先の計画立てに祐巳んちに来たはずなのに、何やってるんですか(笑)



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