印画紙の中の未来
(蔦子)




ここは誰もいない教室。
自分の席に座る私の前に、今、現像したばかりの2枚の写真がある。

両方の写真に写っているのはツインテールがトレードマークの、愛すべき友人。

右の写真には、まるで強靭なバネの様なタテロールの1年生。
左の写真には、長身でストレートロングの1年生。

両方とも、写したのは私、武嶋蔦子。
勿論例に洩れず、隠し撮りである。





私は、写真には人間なら雰囲気というか…空気の『色』みたいなものが写ると思っている。
人間は喜怒哀楽を巧妙に隠す。
けれどカメラは微妙にそれを写し出した。
そして作られたものではない、ある意味『素』とも云えるその表情はとても人を美しく綺麗に見せる。

(…だからこそ私は『素』を写し出す写真に自分が収まるのが苦手なのかもしれないのだけれど)

『姉妹』になる2人の間にも、ある共通する空気の色みたいなものがある気がした。
何組もの『姉妹』をカメラに収めてきたけれど、写す度にそう思う。

マリアさまの前で祥子さまにタイを直される祐巳さんを写した写真を見た時も、それを感じた。
私は出来上がった写真を見ながら「もしかすると」と考えた。

もしかすると、このふたりは『姉妹』になるかもしれない、と。

逆に、祥子さまが志摩子さんを妹にと望んだ時の写真(勿論撮りましたとも。私は写真部のエース、武嶋蔦子ですから)には、その『色』が2人の間には全く感じられなかった。
だから、志摩子さんが祥子さまの申し出を断り白薔薇さまの手を取った事を不思議には思わなかった。

私はその『色』を白薔薇さまと志摩子さんの間に感じられていたから。

独得な空気。
その『色』はほとんどの姉妹の間の流れている。

それはさながら運命で結ばれた赤い糸みたいなものかもしれない。
…赤い糸、なんて、ロマンスやらセンチメンタルとか云うものとは無縁な自分が考えるのは如何なものかと思い、苦笑した。


さて。
ここに2枚の写真がある。

両方の写真に写っているのはツインテールがトレードマークの愛すべき友人の祐巳さん。

右の写真には、まるで強靭なバネの様なタテロールの1年生、松平瞳子嬢。
左の写真には、長身でストレートロングの1年生、細川可南子嬢。

どちらも祐巳さんとひと悶着あった1年生だ。
その割に、祐巳さんはこの2人を可愛く思っているらしい。
そして周囲の中にもこの2人が祐巳さんの妹候補と囁く人がいる。


「ふむ…」

2枚の写真を前に腕を組む。

私は、写真には人間なら雰囲気というか、空気の『色』みたいなものが写ると思っている。
『姉妹』になるふたりの間にも、ある共通する空気の色みたいなものがある気がする。
何組もの『姉妹』をカメラに収めてきたけれど、写す度にそう思う。

この2枚の写真。
この写真の2人の間には

「あ、蔦子さんだ。まだ残ってたんだ?」
「おや、祐巳さん」

薔薇の館からの帰り、鞄を取りに来たのだろう。
祐巳さんの机に鞄が置いてあった。
とてててー、と祐巳さんが私に近付いてくる。
そして机の上の2枚の写真に気が付いた。


「あ、瞳子ちゃんと可南子ちゃんだ。また蔦子さんってばいつの間に…」
「いやいや、なかなか良い雰囲気だったから。でもちょうど良かった。はい」

2枚の写真を揃えて差し出されて、祐巳さんは「ほえ?」と云う様な顔で写真と私を見比べた。

「くれるの?」
「良く撮れたしね。ホラ、まるで『姉妹』のよう」
「…いつか何処かで聞いた様なセリフだね、蔦子さん…」
「あら、憶えてた?」

祥子さまにタイを直されている写真に対して云った言葉だ。

「…でも、この2枚、ホントに良く撮れてるよ。有難う蔦子さん。戴くね」
明日瞳子ちゃんも可南子ちゃんにも見せてあげようかな〜なんて云いながら、祐巳さんが2枚を見ながら笑う。

「さてと。それじゃ私も帰るとしますか。おなかも空いたし」
「まさかまたお昼抜きで現像してたの?」

グゥ、というおなかの虫の音に祐巳さんが呆れた様に云った。


私は写真に写る『色』を誰かに云うつもりは無い。
それはとても不確かなもの。
云ってはいけない事だから。
たとえ仲良しでも。
たとえ祐巳さんでも。


祐巳さんが誰と『姉妹』になるかは、マリア様と未来の祐巳さんが知っているんだから。


fin



後書き

執筆終了日:20040124

今回は蔦子さん話です。
何書いてるんでしょうねー(苦笑)
蔦子さんって一歩引いた所から色々見ているようで好きなんですけど、それを書くとなると難しく…
でもまた書きたいです。
でもいつもの様に「アンタ誰」状態ですいません、精進します…


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