事情と情事
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「ずっと…触れたかったんです…」
祐巳ちゃんの声が、切なげに空気を震わせた。
私は、私の手に唇を這わせる祐巳ちゃんを見詰める事しか出来ずにいた。
振り払う事なんか、出来ない。
「私は…聖さまの手にいつも訳が解らなくなってしまうけど…でも聖さまはそんな私を見つめてて…ずるいって…私ばっかりずるいって…」
「うわっ!」
肩を押されて、床に倒された。
「痛…っ」
「ご、ごめんなさいっ大丈夫ですか?」
「頭打った…」
後頭部をぶつけてしまった。
一応毛足の高いカーペットだとはいえ、ちょっと痛い。
祐巳ちゃんの手が後頭部をさする。
思わず、このまま気を逸らせられるか、と淡い期待を持ってしまう。
だって…このままだと、かなりマズイ。
出来るなら、祐巳ちゃんの気を逸らしたい。
「…そんなに、私にされるの、嫌ですか…?」
考えていた事を読んだかのように、祐巳ちゃんが私の目を覗き込みながら云った。
少し、寂しそうな目。
思わず、ごめん、と呟きそうになった。
でも直ぐに、なんで謝らなきゃいけないのか、と苦笑しそうになる。
「…祐巳ちゃんは、そんなに私にしたいの…?祐巳ちゃんこそ、私にされるのは嫌?」
「違います!そうじゃなくて…」
そうじゃなくて…と目を逸らす。
心持ち、頬が赤い。
「…私ばかりじゃなく…私だって聖さまに触れたいんです…好きな人に触れたい…そう思うの、ダメなんですか…?」
正論だ。
私が祐巳ちゃんに触れたいと思うように、祐巳ちゃんも私に触れたい…そう思ってくれた。
それは、素直に嬉しいと思う。
私に触れたいと思うって事は私を好いてくれているから。
だけど…。
「すき…だから…したいんです」
ゆっくりと、唇が重なってきた。
素肌に、祐巳ちゃんの手が滑る。
手は、私の肩から、胸へと滑っていく。
「…っ」
塞がれている唇から、声にならない声が洩れそうになる。
ちょっと待って…このままじゃホントにマズイって…!
私が祐巳ちゃんに触れるように、祐巳ちゃんが私の胸に触れてくる。
敏感な実を、親指の腹で触れられて、びくんと体が揺れてしまった。
背筋をなんとも云えない感覚が走り抜ける。
「聖さま…」
「…っふ…」
首筋を滑っていく祐巳ちゃんの唇…そして柔らかく湿った舌。
鎖骨から、ゆっくりと唇が下がっていく。
正直、私は今まで祐巳ちゃんを抱きたいとは思っても、されたいとは思っていなかった。
それは、今も変わっていない。
けれど、祐巳ちゃから受ける刺激に、体は確実に反応してしまう。
私の意志に反して、体は祐巳ちゃんから受ける愛撫に悦んでしまう。
そりゃそうだ。
好きな子に触れられているんだから。
でも、これ以上は正直、心臓が持ちそうにない。
「…ダメだって…もう、やめ…」
そこまでなんとか云った時、祐巳ちゃんの唇が胸の実に触れた。
まるで電気が走るような、感覚が駆け抜けた。
「く…!」
私は祐巳ちゃんの肩に手を掛け、引き離そうとした。
でも、腕に力が入らない。
ただ肩を力の入らない手で掴んだだけになってしまう。
口に含まれて舐められるそれに、私は唇を噛む。
そうしなければ、声が洩れそうだ。
もし、私のクセを再現しているのなら…遅かれ早かれ、祐巳ちゃんの手が私の下半身へ滑るのは間違いない。
それは…させられない。
いくら、祐巳ちゃんに反応して泉が水を湛えているとしても。
私は渾身の力で体を起こし、祐巳ちゃんを組み敷く形に持って行った。
「きゃ…っ!」
「もう、許さない…」
体に奥に灯った火が、ぶすぶすと燻る。
もう、ダメだ。
もう、付き合ってあげられない。
私に、火をつけたのは、君自身だから。
この体に火をつけた責を、果たしてもらう。
「い…やぁ…」
「ダメ…逃がさない」
私はずり上がろうとする祐巳ちゃんの腰を掴んで引き下ろす。
逃がさない。
この身の内の熱を、受け止めてもらう。
潤んだ瞳が、私を睨む。
「ず…る…い…」
「うん…ズルいんだ…私は」
そう云って、目尻を零れる涙を唇で受け止めた。
荒い呼吸の中に、甘い声が混じっていて、更に私の中の火は越え盛る。
「わ…たし…ばっかり…や…」
「…祐巳ちゃんばかり…じゃないよ」
私の体の奥は、祐巳ちゃんに反応してる。
だから。
祐巳ちゃんばかりなんかじゃない。
祐巳ちゃんの膝に手を掛けた私に、祐巳ちゃんが驚いたように、声を上げた。
「せ、聖さま…っ!ヤダ…ッ」
膝を開こうとする私に、開かれるまいと懸命に力を込める。
…でも、それは無駄な足掻き。
もう力は入らないだろうから。
だから、難なく足は開かれた。
「やぁ…っ!」
抵抗する祐巳ちゃんに、ごめんね、と呟いた。
でも、もうダメなんだ。
ずっと…ずっと我慢していた。
でも、祐巳ちゃんによって、私のタガは外れてしまっていた。
「ダメ…ッ!いやぁ!」
秘密の果実に、私は初めて唇を寄せた。
ガクン、と祐巳ちゃんの体が揺れた。
背をしならせて、首を逸らして。
足が引きつったようにカーペットに立てられた。
「あ…あ…ダメ…そんな…っ」
私の舐め上げる舌の動きに、息も絶え絶えに声を洩らす。
「やめて…お願…い…っ」
蜜に濡れたその部分を、私は丹念に舐め上げる。
けれど次から次へと、それは溢れてくる。
もう、祐巳ちゃんの声は泣き声に変わっている。
刺激が、強すぎるのだろう。
ちょっとキツく吸い上げると、ひと際高い嬌声。
「も…やぁ…い…っ」
意味をなさない、言葉になっていない声。
私はその泉に舌を差し入れた。
「やぁぁっ!」
私だけ。
体の奥に燃える火を飼いながら、私は私だけが許されている場所を愛する。
誰にも、渡さない。
誰にも。
たとえこの気持が、醜い独占欲だと云われようと。
その時、祐巳ちゃんの体がカタカタと震え出した。
「も…ダメ…っ」
祐巳ちゃんがそう云った時、私は実に与えていた刺激を強め、舌を更に差し入れた。
祐巳ちゃんを胸に抱きしめ、私はあやすように髪を撫でている。
「ごめん…」
震える肩に、申し訳なさで一杯になる。
「無茶、しすぎた…」
独占欲に駆られ、求めてしまった。
何度も何度も。
辛かったんだろうか…祐巳ちゃんは泣いている。
「…私ばかりじゃないって…聖さま云ってました…」
「ん?」
「私を抱いてる時…聖さまも…?」
濡れた瞳で、私を見上げてくる。
その表情に、また体が疼いてしまいそうになる。
「うん…祐巳ちゃんに反応するよ…体が、熱くなる」
「聖さま…」
「何?」
祐巳ちゃんが、ふと、目を逸らした。
「私…ひとりが聖さまに愛されるんじゃなくて…私も聖さまを愛したいです…一方的は、嫌…」
「…うん」
祐巳ちゃんの唇が、そっと私に触れた。
これから、何度と無くこんな事が繰り返されるんじゃないだろうか。
私に触れたがる祐巳ちゃんと。
「聖さまに…したいんです…私だけが出来る事を…」
執筆日:20050312
聖さま、何とか逃げ切り。
でもいつか祐巳ちゃんに押し切られそうですけど。