帰り道
(聖)



同じ敷地内だけど
でも
それでも





この所、姿を見掛けない。

そろそろ試験期間に入ってしまうからなんだろうか。
それとも他の事ですれ違っているんだろうか。

…この所、って云ったってまだ3日逢っていないって位だけど。
それでも…私は祐巳ちゃんを欲してしまう。

高等部時代の様に、薔薇の館へ行けばかなりの確率で逢えた、あの頃を懐かしく思う。

確かに今も同じ敷地内だけど。
でも、やっぱり労せずに毎日でも逢えたあの頃には敵わない。

いくら同じ敷地内でも、違う。

私は青い空を仰ぎ見た。
清清しい程の、青空を。


と。
足に何かが絡まる感覚に足元を見ると、ゴロンタがいた。
「ニャア」と一声。
まるで「元気か?」とでも聞いて居るかの様。

「久し振りだね、ゴロンタ」

もう数ヶ月振りだというのに、私を覚えていてくれる。
野良として十分立派にやっているのに、いまだ私を信じて近付いてきてくれる。

労せずとも、逢える幸せ。
今はそれを噛み締める。
あの頃の様にいつでも逢える状況じゃないからこそ。

「ゴロンター?急に走り出してどうしたのー?」

ひょい、と建物の影からツインテールが見えた。

「祐巳ちゃん?」
「へぁっ?」

なんて声を出すのか。
でも、そんな驚いた様な表情すら、いとおしい。

「聖さま!」
「やほ、祐巳ちゃん。ゴロンタならホラ、ここにいるよ」
「ニャ」
「急に走り出したからどうしたのかと思ったら…聖さまが居るって解ったからだったんだ…」

いや、ゴロンタは祐巳ちゃんを私のところに連れてきてくれたんだよ。
そう思いたい。
だって、このゴロンタの得意そうな顔がそう云ってる。
「どう?エライ?」とでも云ってる様な顔。

「お手柄だ」
「え?」

ひょい、とゴロンタを抱き上げると、更に得意げな顔で「ニャ」と云った。

「処で祐巳ちゃん、これからの予定は?」
「あ、もうすぐ試験なので…山百合会の仕事も休みなので帰ります」

そういえば、手にかばんを持っている。

「あの、聖さま?」
「ん?」
「あの…ですね。帰られるんですよ…ね?」
「うん」

ゴロンタが降りたがっているのを感じて地面に下ろす。
降ろすと「またね」とでも云う様に一声鳴くと、てててーっと走っていく。

「ご一緒、しませんか?」
「なぁに、その他人行儀な科白」

思わず苦笑してしまう。
私が云いたかった事を先に云われてしまったんだから、キチンと云って欲しい。

「た、他人行儀、って…」
「…逢いたかったの、私だけかな」
「…え?」

ふぅ、とひとつ溜息を落として、祐巳ちゃんを見据える。

「…えっと」

視線をさ迷わせて、祐巳ちゃんは何かを言いたげにかばんを抱える。
そして、ギュ、とかばんを抱く腕に力を込めると、真っ直ぐに私を見た。
思わず、怯んでしまいそうになる位に、真っ直ぐな目。

「…逢いたかったです、ずっと」

「って云っても、3日ですけど…」と一人ごちる。
私は、すぃ、と祐巳ちゃんの肩に手を回して、歩き出した。

「え、あ、聖さま?」
「私も」
「え」

聖さま?と祐巳ちゃんが名を呼ぶ。

同じ様に思っていてくれているのが、嬉しくて、どうしようもない。

なんて、云えない。


労せずして逢える幸せ。
労しても、逢いたいと思える人。

同じ様に『逢いたい』と思ってくれる人がいる、幸せ。


私は清清しい程の青空を仰ぎ見た。



後書き

執筆日:20040917

何気無い、一日って事で。
逢いたいって気持ちが大事だね。



novel top