目覚め


私の言葉に祐巳ちゃんが目を丸くした。

「…私を宜しく…ですか?」
「そう…どういう意味なんだろ…まさか」

まさか、薄っすらとでも、私と祐巳ちゃんの関係が『友人』ではない事に気付いて…?

「まさか…って…聖さま?」
「ん……おばさま、もしかして私と祐巳ちゃんの間の事、薄々感じ取っているのかな…って思って」

あ、祐巳ちゃんが止まった。
考えてる?
いや…違うなこれは。
来る。来るぞ。

「え、ええぇぇぇっ!?」

ほら、やっぱり。










チェックアウトは、正午。
だから、出来るだけ今この時間を楽しもう、そう決めた。

明け方まで、情を交わした。
何度も何度も、追い詰めて、追い上げて。
タガが外れてしまった私を受け止める祐巳ちゃんはキツかったに違いない。
でも、それでも、私を受け入れ、受け止めてくれた。
何度も私の名を呼んで、私の背に回した腕に力を込める。
その表情が、普段の可愛い祐巳ちゃんとは違う『祐巳ちゃん』が、私を欲情させるから。

「…ごめんね」

もう、手離す、なんて事は想像も出来ない。
祐巳ちゃんが傍にいても、いなくても、私は祐巳ちゃんを求め続けてしまいそうだ。
心は、常に。

両手を握り締めて、他に目を向けず、向けさせず。
そんな関係を、栞に強要していた。
栞は何も云わずに私を受け入れた。

そして、もっと、と。
栞の未来すら、夢すら許せず、私だけのものにしようとした時、終焉への道を歩み出した。

…莫迦な、自分。
自らが、その道に歩みを進めた。
それを、栞は受け止め、受け入れ、私の元から離れた。

生きる為に。
生かす為に。

…それは、今だから解る事。
あの時の私には、窺い知る事すら、出来なかった事。

でも、今なら…少しでもあの時の愚かな自分を知る事が出来た今なら。
この…小さく、それでいて強い少女と共に歩む今の私なら、あの時の二の舞は決して踏まないと、否、踏まない努力をする事が出来ると思いたい。

それに、この子も云ってくれた。

一緒に歩いて行きたいと。
一緒に、生きたいと。
危うい方へ向かいそうになれば、引き寄せてくれると。

…それにすがってしまうなら、依存になってしまう。
いや、もう既に依存してしまっている部分もあるだろう。

でも、それでも。
前を向いて、行きたい。
立ち止まっても、つまづいても。
懸命に、前だけを。

祐巳ちゃんと、一緒に。


「…ふ…?」

薄っすらと、目を開く祐巳ちゃんに微笑み掛ける。

「もう少し、眠ってていいよ…まだ時間は大丈夫だから」
「…聖さま…は?」

起き上がっている私の手に、ちょん、と指が触れた。
そのささやかな触れ合いに気持が緩む。

「ん?ご所望ですか?私を」
「…うん…一緒がいい…」

こりゃ半分眠ってますね。
敬語が外れてる。
こういう時だけ、敬語が外れるから解り易い。
あと、抱き合っている時も、か。

意識が朦朧としている時、意識が飛んでる時。
そういう時しか祐巳ちゃんの私に対する言葉が緩む事は無い。
そんな処が、もどかしくもあり。
そして、いつそれが無くなってくれるのか、楽しみでもあった。

早く、対等になりたい。
今はまだ、遠慮が消える事の無い祐巳ちゃん。
その祐巳ちゃんから、早くそういうしがらみとかいうものが消えるといい。
そう願う。

私は体を横たえ、祐巳ちゃんをそっと胸に抱く。
すると待っていた、というように背中に腕を回して頬を摺り寄せてきた。
まるで、子犬か子猫が人間の温もりを求めているよう。
いや、子狸か。

そう考えて、思わず笑いが零れてしまった。

「……何がおかしいの…?」
「ううん。可愛いなって」
「………聖さまだって…可愛いんだから…」
「は?」
「…私が抱きしめたら、キュッてしてくるもん…」

い!?
な、何ソレ!

「ゆ、祐巳ちゃん…?」
「…………」

すぅ…っていう寝息が聞こえてくる。
眠りに落ちてる。

ちょっと、何ソレ!
抱きしめたらキュッて、それ何!

云った本人は眠ってるし。


……

………ま、いいか。

なんだか、祐巳ちゃんの寝息を聞きながら、柔らかい体を抱きしめていたら、急にどうでもよくなってきた。

だって、別に祐巳ちゃんになら何されたっていいし。
何見られたっていいんだし。

祐巳ちゃんしか知らない私、なんてのがいるのも、いいかもしれない。

…ちょっと、恥ずかしいけれど。

「…全部、祐巳ちゃんにだけだからね」

そっと、眠っている少女に呟く。

メロメロになっている自分。
カッコいいじゃないか。


私は、この子が好きなんだから。
そんなこと、当たり前なんだから。


祐巳ちゃんが目を覚ましたら云ってやろう。

「好きだよ」って。
もう思う存分、知られてしまっている事だけど。
改めて云う事じゃないかもしれないけど。

改めて、云ってやる。
目覚めのキスと一緒に「好きだよ」と。

きっと、君は返してくれる。
「私も、好きです」と。

真っ赤な顔で、微笑みながら。




執筆日:20050221

うわっははーい
もう笑うしかなーい
最初のシリアス何処行った!?
遠いお空の向こうさー ←毀れた


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