No one's perfect.
7:30am
…朝。
目が覚めると、どうにも体が重かった。
胃の辺りに不快感。
手足も冷たい。
…一体、私はどうしたんだろう…
当然、朝食なんか食べる気はもちろん、作る気にもならない。
動作ひとつひとつするにも溜息とセット。
っていうか、溜息ばかり。
こんな調子で大学なんか、行く気になるはずもない。
仕方が無い。
私はベッドに身を任せる。
体を横たえている事が一番楽だった。
もう、何もしたくない。
冷たい手足を温めるべく、体を丸くする。
そうしていると、なんとなく…胃の不快感も誤魔化せる感じがした。
8:13am
うとうと…としても、すぐに目が覚めてしまう。
胃の不快感は吐き気を伴って私を苛め始める。
ベッドから下りて、フラフラと洗面所に行くけれど、吐き気だけで何も出ない。
…こういうのが一番体力消耗するんだよ…
500mlのミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出す。
喉、というよりも口が渇く感じ。
風邪、かなぁ…
ゆっくり、含むように飲みながら考える。
それじゃ、今は無くてもこれから頭痛やら熱やらに襲われる可能性大…って感じか…
最悪、と呟きながらベッドに向かった。
10:09am
…当たる予想なんて嫌いだ…
悪寒がしてきた。
視界も何となく歪んでいる。
目が潤んで来ているのだろう。
このままだと起き上がれなくなりそうだ…
そう思って冷凍庫に入っている冷却用枕と冷却シート、そしてミネラルウォータのペットボトルを用意した。
おでこにシートを貼ってベッドに横になる。
ヤバイな…
酷い悪寒に体が震え出す。
しっかりとベッドに入っているのに、寒さを感じてしまう。
どうする。
母親にでも電話しようか。
……いや、やめておこう。
ホラ御覧なさいとばかりに家に連れ帰らされてしまうに違いない。
そこで、私の霞む脳裏に愛しい子の姿が過ぎった。
祐巳ちゃん…
祐巳ちゃんに逢いたい。
そうしたら、こんな気分も吹き飛ぶのに…
逢いたい。
「…祐巳ちゃん」
「大丈夫ですか?聖さま…」
ハッと目を開く。
目の前には心配そうな祐巳ちゃんの顔。
時計を確認すると2:35pm。
あれ?
「ど、どうして…?」
「どうしてって、聖さま?何がですか?」
「どうしてここに…?」
私は回らない頭で一生懸命考える。
でも、なかなか答えが導き出せない。
「…今日でテストが終わるので、お邪魔しますねってゆうべお電話したじゃないですか…。お伺いしたら、聖さまはベッドで苦しそうにしているし…私、焦りましたよ」
そう云いながら、祐巳ちゃんは私のおでこの冷却シートを剥がし、タオルで汗を拭いてくれた。
そして新しいシートを貼ってくれる。
ひんやりとして気持いい。
「少し何か食べないと…何がいいでしょうか…お粥、ですかね」
「あんまり食べたくない…胃の調子も良くないんだ」
「なら尚更何か胃に入れてあげた方がいいんじゃないですか?もし吐いたとしても、何もない胃よりもずっと負担はかからないっていいますから」
お粥にします、と祐巳ちゃんはキッチンへと行ってしまう。
確かに、祐巳ちゃんの言葉は一理ありだけど…
朝より、ほんの少し気持が楽になっていた。
体は、相変わらずだけど。
5:19pm
「はい、あーんして下さい」
「…なんか恥ずかしいんだけど…」
レンゲに一口分より少なめのお粥。
祐巳ちゃんがそれを持ってスタンバイ。
「あーん、して下さいってば」
「うう…」
覚悟を決めて、口をあける。
程よく冷めたお粥が、するりと口の中に入ってきた。
梅の入った塩粥。
なんだか優しい味がした。
6:02pm
「気持ち悪くなったりとか、何かあったら、直ぐ云って下さい。いいですね?」
「はーい…」
今夜はお泊りしてくれるのだという。
「そんな聖さま、一人に出来るはずないじゃないですか!」と叱られた。
「聖さまは、何でも一人で出来てしまう人ですけど、だからって何から何まで自分でしようなんて思わないで下さい。私だって、お手伝い出来るんです」
「…はい」
なんだか今日の祐巳ちゃんは、ちょっぴり強気だ。
…『お母さん』って、こんな感じなのかな…なんて事を思わず考えてしまった。
二歳下の女の子相手にそんな事をに。
多分、祐巳ちゃんのお母さまがこんな感じなのかもしれない。
「頼りないかもしれませんけど…少しは甘えて、頼って下さい」
…熱とか、体調が悪い時って、ちょっとの事が嬉しかったりする。
それが私の事をこれでもかってくらい、思ってくれている人なら尚更。
抱きしめたいのをなんとか我慢して、私はベッドから手を伸ばし、祐巳ちゃんの温かい手をそっと握って「有難う」と微笑んだ。
今日やっと、微笑む事が出来た気がした。
執筆日:20050114
…この聖さまは今日の私そのままです…
でもうちには祐巳ちゃん来てくれません(当然)
うう、胃が気持ち悪い…