「お返し」の行方
(祥子)

祐巳から「びっくりチョコレート(笑)」を貰い、今度の日曜に半日デートをする事となった祥子は悩んでいた。
別にバレンタインを忘れていた訳ではない。
むしろ、その日を意識していたと云ってもいい。
生徒会役員選挙を機に事実上、山百合会の業務から手を引かれたお姉さま達薔薇さま方に変わり、つぼみ達が中心となった初めてのイベント、宝探し。
それを成功させる為に頑張ってきたのだから。
けれど。
祐巳からチョコレートを貰って半日デートを決めて帰宅した祥子は、はた、と思い当たった。
チョコレートのお返し、だ。

「こういう場合のお返しはどうしたら良いのかしら…」
今まで祥子はバレンタインという名の「お祭り」には関わらない生活を送ってきた。
昨年高等部1年の時、バレンタインだからとチョコレートを渡そうとして来た上級生や同級生はいたけれど、全て受け取らなかった。
祐巳にも言った様に、誰かの予定調和の為に贈られる大量のチョコレートなんてうんざりだったから。
でも今年は違う。
祐巳は他の誰でもない、祥子の為にチョコレートをくれたのだから。
だからこそ、祥子は考える。

「どうしたら良いかしら…ホワイトデーにお返しをするだけで良いかしら…それとも半日デートの時にまずチョコレートのお礼をした方が良いかしら…」

去年、令はバレンタインにチョコレートをくれた人達全員にホワイトデーにお返しをしていた。
今年も多分そうするのだろう。
そうだとしたら、ホワイトデーだけで良いのだろうか…
けれど、そう考えた後で「でも由乃ちゃんにはチョコレートのお礼もしているのかもしれないわ」などと考える。

「…どうしたら良いかしら…」


他には誰も来ていない薔薇の館。
別に相談したという訳ではなかったのだけど。
令は苦笑しながら祥子前の席についた。
昨日の疲れが取れないという様に右肩を回しながら令は「大事なのは気持でしょ」と言う。

「祐巳ちゃんだって、祥子にチョコレートを渡したいって思ったから私や由乃に相談したりしていたんだし」

――宝探しの準備期間、つぼみは新聞部と薔薇の館に一緒にいる事が増えた為か、祐巳は掃除以外に殆ど薔薇の館には近付かなかった。
けれど志摩子や令、聖とは楽しそうに話しているのを見て、避けられているのかと、嫌われたのかと思い、それを祐巳にぶつけたのだ。
嫌われているのではなく、むしろその逆ゆえの行動だったとは後から気付いたのだけれど。

「だから祥子だってお返ししたいっていうその気持を大事にしたらいいんじゃない?祐巳ちゃんならどんなカタチでも喜んでくれるって」

令は紅茶を飲みつつ、そう言った。
…祥子はそのお返しに悩んでいるのだが。


ところが。

「だから、お姉さまが当たりを引いたんですから、お姉さまが出費するのは何か違うと思うんですけど」
「私が貴方からチョコレートを貰ったのよ?そのお礼代わりに」
「でもお姉さま、それでは」

…などと半日デートの費用問題で祐巳と散々話し合った結果、間を取った形で費用は割り勘で1500円ずつという事に収まり、その上いつの間にかチョコレートのお礼もホワイトデーにと決まっていたのだった……けれど。
卒業式やら何やらあって延び延びになってしまったホワイトデーは祐巳の誕生日と一緒となり、祐巳の提案で半日デートで遊園地に行く事になったのだけど……梅雨の時期に更なる困難(?)を乗り越え、強い絆を確信した紅薔薇姉妹の遊園地デートは「夏休みは混むし、何より暑いのが苦手」という祥子に押し切られ、冬まで延びてしまうのだった――

終??



後書き


執筆終了日:20030126
本当は2作目なのですけれど、内容の関係上こちらを前にしました。
この話を書くにあたってウァレンティーヌスから最新刊子羊まで何度も読み返したんですけれど…
でも「こんなの祥子さまじゃないわ!」と思われる方は多々いらっしゃるかと…うう、精進致しますのでお許しを(涙)


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