梅の木のおみくじの花




『無くし物は出てこない』
『願い事はスムーズにはいかないけど、叶う』

去年、一月二日。
リリアンへの循環バスを途中で降りた所にある神社で祐巳ちゃんと引いたおみくじにあった、私の運勢。

おみくじが云う所の『無くし物』は何なんだか自分でも解らない。
でも、願い事は叶った。
スムーズにいったとは、当然云えないけど。
大切な物は今、私のそばにある。
いつの間にか大切になっていて、欲しいと願っていたけれど、決して私の想いが届く事は無いだろう…そう思っていた薔薇のつぼみが、私のそばに。

その手を握りしめて、本当にいいのかと…悩んだ。
だってあの子には、大好きな『お姉さま』がいたから。
それなのに、私があの子の手をとっていいのか…と。
でも。
あの子は距離を置こうと…離れようとした私の手をしっかりと握ってくれた。

…あの子だって悩んだに違いない。
悩まない訳がない。
姉と私の間で揺れていたに違いない。
でも、あの子は私の手をしっかりと握ってくれたのだ。
自分の中の想いをきちんと見極めて。

逃げようとした私の手を、握ってくれた。
とても強く。
温かな手で。
真っ直ぐに、私を見て。



梅の木に、今年も白いおみくじの花が咲いている。
木におみくじを結ぶと、良い事柄が成就する、といっただろうか…
それとも良くない事柄から木が守ってくれるというものだっただろうか?
どちらだったか、定かではない。
誰かに聞いたのか、何かで読んだのかすら、遠い記憶の彼方だ。
まぁ、どちらにしても、良い事には変わりが無いのだけれど。

出店の前を通り抜け、おみくじを引くために並びながら、先にあるおみくじの花が咲いた梅の木を見ていた私の袖を、控えめな力が引いた。
気付くか気付かないか、の本当に弱い力。

「ん?」

梅の木から、隣に目を向けると、ほんのちょっぴり怒った顔。
どうしたのかと首を傾げると、怒った顔が俯いた。

「どうした?」
「…また巫女さん見てるんですか」
「巫女さん?」
「そういえば、去年も美人な巫女さんの所に並びましたもんね」

おや?
俯いている頬が、膨れている。
思わず、頬が緩んでくる。

「祐巳ちゃんも、巫女さんの格好したら可愛いだろうね」
「…へ?」

俯いていた顔を上げて、私の顔を見る。
そして頬が紅に染まった。

「…おだてたって、何も出ませんよ」

おや、心外。
本当にそう思ったのに。
神社でバイトしてみたら?なんて云ってみようかと思ったけど、やめた。
もし神社でバイトしちゃったら、こうして初詣に一緒に来る事が出来なくなってしまう。

そうこうしている内に、私達の番が来て、おみくじを引く。
…今年は巫女さんにちょっかいは出さなかったけれど。
だって、隣で心配そうに私を窺ってる祐巳ちゃんを見たら…ねぇ?
こんなに可愛い子がいるのに、そんな事出来ませんて。


おみくじを手に、梅の木の傍に立って、おみくじを見る。
良い事が書いてあると嬉しい。
祐巳ちゃんと過ごす、これからの一年が波乱万丈ではありませんように。

「聖さま、何が出ました?」

祐巳ちゃんがおみくじを見ながら聞いてくる。
去年は私が小吉で、祐巳ちゃんが末吉だったで、私の方がちょっぴり良かった。

さて、今年はどうなのだろう。
凶は勘弁って感じかな。

「えーと…私は…」


まぁ、凶だろうがなんだろうが良い方向に力技で向けて見せますけど?
何せこちらには『福沢祐巳』っていう縁起の良い名を持つ女神がいますから。


執筆日:20050105


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