世界は、君に繋がっている




どうにも、眠い。
折角祐巳ちゃんが傍にいるっていうのに…

でも睡魔は容赦なく、ダンスしながらやってくる。

「…遅くまで、レポートやっていたって、云ってましたもんね…」

優しい声が、降ってくる。
そして、そっと髪に触れてくる、優しい手が…

「少し、眠っていいですよ…私なら、聖さまが目を覚ますまで、ここでこうしていますから」

こうして…って?

ふわり、と何かが私に掛けられる。
祐巳ちゃんの、香りが私を包んだ。
なんとなく、温かい。
私は、辛うじて繋ぎとめていた意識を、手離した…









…あれ?

夢の世界…だよねえ…?


真っ白な世界。
何もない。
他には何も。
誰もいない。

私以外、誰も。


「祐巳ちゃん?」

何故か、口をついて出たのはあの子の名。
そんなに私はあの子の傍がいいのか。

いいんだよねぇ…

苦笑しながら、天を仰ぎ見る。
私の真上の空だけが、ぽっかりと、青空があった。

なんじゃこりゃ。

ちょうど、本当に私の真上だけ、まぁるく切り抜かれたように青い空。
じゃあ他の白はなんなんだ?
雲……という感じはしない。
ただ、真っ白。

何もない
誰もいない

真っ白な世界。
ただ、私の頭上以外を除いて。

…おかしなものだな…

普通ならこんなところにいれば少なからず不安になって、何かを探したり誰かを探したりするんだろう。
でも、何故か私は妙に落ち着いている。

いや、頭上の青を見るまでは、なんとなく不安で、あの子の名を呼んだ。
こんな真っ白で何もなくても、あの子がいれば…
そう思った。
そして、何気無く仰ぎ見た天上に、ぽっかりと、青。

それを見て、私の不安が消えたのだ。

あそこには、祐巳ちゃんがいる。
私は、ひとりじゃない。
そんな感じがして。

…よし、行こう。

私は、天上の青空を仰ぎ見て、両手を広げる。
祐巳ちゃんの元に。
祐巳ちゃんがいる、世界へ。
そして、大切な人たちのいる世界へ。

私は、手を伸ばす。
『世界』へ…




手が、何かに触れた。




「んあ?」

パカッと目が開いた。
物凄い、クリアに。
すっきりとした視界。

手が触れたのは、祐巳ちゃんの頬。

「聖さま?」

祐巳ちゃんが驚いた様に私を見ている。
頬に触れてる私の手を、その手でそっと包むようにしながら。

「夢、見てた」
「どんな夢です?」
「真っ白い夢」

へ?と祐巳ちゃんが首を傾げる。

よっこらしょ、と私は体を起こすと、祐巳ちゃんに向き直る。

「真っ白で、なんにもないところに、私がポツンと立ってて。誰も居ないんだ」
「私も…ですか?」
「うん」

頷くと、祐巳ちゃんは何やら複雑そうな顔をした。

「でも、天上を見上げるとさ、丁度私の真上だけ、ぽっかりとくり貫いたみたいに青空があるんだ」
「……」
「それを見たら、なんとなく、ホッとした。ああ、あそこに祐巳ちゃんがいる…って」

そう、青空を見て、私はそう思った。
祐巳ちゃんには、青空が似合う。
だからなんだろうか…
そして、私だけの閉じた世界に居ちゃいけない人。

栞の時は、両手を繋いでしまったから…二人だけの世界を形成してしまったから。

「青空は、祐巳ちゃんや、広い世界に繋がってるんだってそう思ったんだな」
「世界…ですか」
「うん。だから、私は空に向かって手を伸ばした。広い世界が広がってるだろう青空に。祐巳ちゃんに逢う為に」

あ。
しまった。
云わなくていい事まで云ってしまった。
祐巳ちゃんが、なんとも云い難い表情で私を見ている。


「…祐巳ちゃん?」
「あ、え、いえ…」

ぼーっとしている祐巳ちゃんに、私は何やら不安を感じて声を掛けた。
おかしな事云っちゃったから、引かれちゃったか。

「聖さまは、手を伸ばしてくれるんですね」
「え?」

にっこり、と祐巳ちゃんが笑った。

「私や、私がいる世界に、手を伸ばしてくれるんですね」

そう云って…私の肩に、ちょこん、と額をつけた。



「うん。そりゃ祐巳ちゃんに逢う為なら…ね」






執筆日:20050314

突発。
めっさ突発。
ていうか、睡魔に襲われて目が覚めたらam2:35でした…(愕然)

これは、私の夢です、実は。
白い世界。
天上の青空。
ついさっき、見ていた夢です。
それをちょっと拝借してSSにしてみました。

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