優しさ
(祐巳)




祐巳はいつもの習慣通りにマリア様に手を合わせ、くるりと後ろを振り向く。
そして、もう一度くるり。

マリア様が微笑んで、祐巳を見下ろしている。
そのお顔にはいつもある微笑み。

そりゃあ像なんだから、当たり前なんだけど。

…マリア様にも、お辛い事や悲しい事はお有りよね…って、そんなの当然か…

慈悲深い笑みを浮かべる事が出来るのは、悲しみを知っているから。
痛みや辛さを知っているから。

だから、万人に微笑む事が出来る。


…そんな莫迦な。
祐巳はマリア様のその慈悲深い笑みから避けるように俯いた。

もちろん、悲しみを知っていれば、人に優しくなれるかもしれないけれど、万人に微笑むなんて事は可能なんだろうか?

自分の痛みや悲しみは、自分だけのもの。
人の痛みや悲しみは、どうしたって解らない。
それを『解る』なんて云えるのは、余程無垢か、余程傲慢かのどちらかじゃないだろうか…

じゃあ『無垢』と『傲慢』は背中合わせって事?

祐巳は溜息をひとつ、その場に落としてマリア様に背を向けた。


『優しさ』は、ただ優しいだけじゃないのかもしれない。
厳しくて、痛くて、辛いものなのかもしれない。

祐巳がその事を知ったのは最近の事だ。

祐巳はこのマリア様の微笑みが大好きだったし、それにこのマリア様の前でお姉さまと知り合ったから、とても祐巳にとってマリア様は『特別』な存在だった。

それが。

それが、どうして。


…祐巳は泣き出しそうな空を見上げながら歩く。

ホントは泣き出しそうなのが、祐巳自身だと言う事は解ってる。
でも、上を見上げて、涙が落ちないように。


泣かない。
だって、この悲しみは祐巳のものじゃないもの。
沢山傷付いて、沢山の枷を背負った、優しいあの人のものだから。



門を出て、バス停を目指して歩く。
すると、直ぐ横をバスが走って行った。

いつもなら置いて行かれまいと駆け出す処だけど。
たまにはこんな日があったっていい。

プシュー、という音が聞こえ、走り出すバスに祐巳は溜息をつく。
溜息ばかり…と苦笑した。

「溜息ついてると幸せが逃げちゃうぞ?」

…ああ、どうしてここにいるんですか?
バス停に、見えていたその姿。
てっきり祐巳に気付かずに乗り込んだと思っていたのに。

「どうした?いつもなら走って来るのに…調子良くない?お腹空いた?あ、それともまた祥子と喧嘩でも…」

見当違いな事をわざと云ってるに違いない。
最後の喧嘩云々を云いたかっただろうに。

「…いいえ、違います。喧嘩なんてしてないし、お腹も空いてませんよ」
「…祐巳ちゃん?」

もういいや。

祐巳は、いつも助けてくれるその人の肩に、ポンと頭をくっつけた。


どうして、そんなに優しいんですか…?
ねぇ…聖さま。



後書き

執筆日:20040622

またまた突発。
突発過ぎて何書きたかったのかさっぱり解らなくなってます。
50のお題にはこんな感じのSSSしか置かなくなってしまいそうな予感が…

ホントに祐巳ちゃん、何が云いたかったんだ!?
謎!←自分で書いてて解らなきゃ世話無ぇぞ私!

…逃げよう。すたこらさっさーあらほらさっさー(古)


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