…呼んでほしい





…寒い。


私は寒さに目が覚めた。

きちんと布団も体に掛かっていて、寒いはずがない。
しかも、もう春間近だというのに。

そう、ベッドの中は、温かい。
なのに、私は寒さに目が覚めた。




…ああ、そうか。

何故、寒いのか、やっと解った。



…君が、いない。






それから、少し経って。

微かに足音が聞こえてきて、そして、布団の端を少し上げるようにする。
…温かいベッドの中に、冷えた空気を入れない為の配慮。
その、少し上げた布団の端から、スッと入り込んでくる。
でも、寄り添ってくるのかと思ったのに、なかなか来ない。

どうして?
寄り添って来ればいいのに。

しびれを切らして、私は寝返りを打つフリをして近寄った。
でも何故か、まるで私に触れるのを嫌がるように逸らされる体。

何故?
どうして逃げる?
さっき、あんなに求め合ったのに。
素肌で、抱き合ったのに。

まだ、この腕には抱きしめた感触が残っているのに。

避けられる事に、寒さを感じた。

すると。

ようやく、おずおずと体を寄せてきた。

…温かい。

冷えている体を予想していたのに。
冷えている体を温めてあげようと思っていたのに。

私は、寄り添ってきた体を抱きしめた。


そして。

「…何処行ってたの」
「あ、すみません…起こしちゃいましたか」

ちょっとお手洗い、と恥ずかしそうに云う祐巳ちゃんに、私は焦らされたかのような気持になりながら抱きしめる力を強める。

「どうして直ぐ寄って来なかったの?温めてあげようと思ったのに」
「いつから起きていたんです?」
「祐巳ちゃんが戻る少し前」
「…じゃあずっと狸寝入りしてたんですか?」

祐巳ちゃんが、ふふ、と微笑む。

「ねぇ、どうして?」
「…だって…私少し冷えてましたから…聖さまに冷たい思いさせたくなかったので…」

私の背に腕を回して来ながら、そっと呟く。

…なんだ。
私は温めて上げたくて。
祐巳ちゃんは私に冷たい思いをさせたくなかった。

お互いに、温めてあげたいと思っていた訳だ。

「…そか」

私はそっと、体を離すとそっと口付ける。
すると、待っていてくれていたのか、唇に応じながら鼻から抜けるような甘い声。

…困っちゃうな。
そんな風にされると、また…って気になってしまうよ?

だから、唇をそっと離して、ちょっぴりおどけたように囁いた。

「冷たくしちゃったら、温めてくれたらいいじゃん」

そう云うと、きょとん、とした顔をする。
全く、可愛いったらありゃしない。

そして、「あっ」と声を上げると見る見る赤くなった。

「だ…って…さっきまで…」
「さっきまで、何?」

とぼけて云うと、「意地悪…」と上目遣いで私を見る。

反則技だよ、それは。
その気になって下さいって云われてるみたい。

「意地悪って、酷いな」
「あっ!」

パジャマの裾から手を差し入れる。
脇腹をゆっくりと撫で上げた。

「せ、聖さま…また?」
「嫌?したくないなら、しないよ?」
「……っ、聖さま…っ」

手は、背中に滑りあがる。
こんな風にされて、「嫌」なんて云われたら、どうしようか。
悪いけど、やめてなんか、あげられないよ。
きっと。

「もう一度聞くけど…嫌?したくない?」

手を止めて、祐巳ちゃんの潤みだしている目を覗き込む。
その目が、恨めしそうに私を見た。
そして、私の胸に頬を寄せると、そっと呟いた。
私のスイッチを、オフには出来なくなる呟き。
まぁもっとも、もう止める気なんかないんだけど。

「……して」







さっきの寒さなんか、何処へやら。
温かいを通り越して、暑い。

祐巳ちゃんの額にも、汗が光っている。
そして、まなじりには、涙。

汗で滑る体に手を這わせながら、汗ではなく、違うもので滑る指先を足の付け根に漂わせて。

「せ、聖…さまぁ…お、願い…っ」

濡れた瞳を向ける祐巳ちゃんが、懇願を口にした。
思わず、ゾクリと背筋に走るものを感じる。

「…初めて…だね…欲しがってくれるの」

耳元に唇を寄せて囁くと、更なる朱が頬に。
「ばか…っ」と零す唇も、繰り返す接吻で濡れていて。

汗に濡れた体。
接吻に濡れた唇。
そして…私を欲し、水を湛える泉。
その泉から溢れるものに濡れる私の指。

たまらない。
辛うじて、保たれていた理性も、そろそろ飛んでしまうだろう。

もどかしげに、祐巳ちゃんが私の首に腕を回し、唇を求める。

与えれば、懸命に舌を絡めてくる。
腰も…私を求めて妖しく揺れていて。

こんなに焦らしてしまう自分。
どうして?
祐巳ちゃんの目がそう云っている。

そんなのは簡単。
私を、欲して欲しいから。
祐巳ちゃんから、私を求めて欲しい。
私だけが求めるのではなく、祐巳ちゃんにも。


ずっと焦らして、直には触れなかった泉が、いつも以上に潤っているのは、知っている。
祐巳ちゃんが足を動かすたびに、水音が聞こえるから。

それもこれも、全てが私を求めるが故。
そう思うと、背筋に快感が走る。

「は…やく…」

もう完全に涙声。

私は、お望みどおりに、ゆっくりと、敏感になってしまっているソレに指を滑らせた。



部屋に、嬌声が響いた。





一方的じゃなく、私が欲するばかりじゃなく。
欲して欲しい。そう思う。

名前を、呼んでほしい。

他でもない、君に。






執筆日20050327


どうもamnesiaの方書く気にはなれず…スイマセン。



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