万華鏡




M駅でバスを降りると、急な雨。
うちに寄って行かない?と私は祐巳ちゃんを誘った。

「帰りは送ってあげるから」
「え?でも…」
「風も強くなってるからさ…傘は持ってるだろうけど、でも上着着て来ていないでしょ。いくら祐巳ちゃんちがバスに乗って帰れるっていったって、風邪ひくよ」

祐巳ちゃんは私の言葉にちょっぴり思案顔。
ま、断る理由なんて無いだろうけど。

「…じゃあ…お言葉に甘えて…」
「ん。甘えて。私がついていて祐巳ちゃんに風邪ひかせたら、福沢家の敷居跨げないもの」

そう云う私に「大袈裟ですよ」と祐巳ちゃんは笑う。
でも、私的には大袈裟でもなんでもないんだけど。






大分雨風が強く、そして冷たくなってきている。

部屋に入ると、私は熱いコーヒーを用意するべく、キッチンへ向った。
お湯が沸く前に、と私はベッドのある部屋へと向う。

「祐巳ちゃん、制服少し濡れちゃってるでしょ?服貸してあげるから、シャワー浴びて着替えた方がいい」
「え、でも…そんなに濡れてませんし」
「ダーメ。ほら行って。風邪ひいちゃう」

Tシャツとスパッツと、カトーさんを見習って用意してあった下着を祐巳ちゃんに渡して、私はまたキッチンに戻る。

「…お借りします」

キッチンに、小さな声が聞こえてきて、パタンというバスルームへのドアが閉まる音が聞こえた。

ほんの少しっていったって、濡れた制服を着せてなんておける訳ないじゃない…





「祐巳ちゃん、カフェ・オ・レでいい?」
「あ、はい…有難う御座います」

ホカホカ祐巳ちゃん、一丁上がり。

バスルームから出てきた祐巳ちゃんにそんな事を考えながら、ちょっと微笑みを浮かべながら問う。
そんな事、考えてるなんて露も思わないだろう。

「きちんと温まってきた?」
「はい、有難う御座います…ほんとなら、聖さまが先に…」
「私はジャケット着てたから濡れてないもの。ああほら…髪キチンと拭かなきゃ」
「きゃんっ」

バフッとタオルを被せてワシワシと髪を拭く。

「せ、聖さまっ止めて下さいよっ」
「前に髪拭いてもらった事あったからお返しだよん」
「目が、目が回る〜っ」
「はいっ、お終い!」

パッとタオルを取ると、もしゃもしゃの頭でクラクラしてる祐巳ちゃんが現れた。

「ふにゃ…」
「…ぷっ」
「聖さまのせいなのに何故笑うんですかぁ!」

聖さまの莫迦!、と云いながら髪を梳く祐巳ちゃんに私は楽しくて仕方が無い。



髪を梳きながら、祐巳ちゃんが私を伺っている。
何処か、心配そうな目。

「どうした?」
「…いえ…」

問いかけると目を逸らす。

何か、考えているような…その表情。

「どうしたの?ほら、云わなきゃ絞めちゃうよ?」
「や、ちょっと聖さまってば」

羽交い絞めにして、ジタバタする祐巳ちゃんの耳に後ろから唇を寄せる。

ふわりとシャンプーの香り。

「き、昨日のTVで心理テストをやっていてっ聖さまならなんて答えるのかなって…思ってっ」
「心理テスト?」

私は拘束を解いて祐巳ちゃんの顔を見る。
はふぅ、と祐巳ちゃんは息をつく。

「ええ。『フラリと立ち寄ったデパートで、とても気に入った品物を見つけて買い物をしました。買った物は何ですか?そしてその品の何処を気にいって買いましたか?』っていう問題だったかと」
「ふむ?フラリ立ち寄ったデパートで、ねぇ…」

思わず、ちょっと考える。
そして、この前雑貨屋で見かけた物が脳裏に浮かんだ。

「私は…万華鏡、かな」
「万華鏡?」
「うん」

あんな筒の中に幾万通りの模様を作る。
同じ模様は現れない。
物凄く、単純な作りで、それでいて物凄く複雑で神秘的な物。

「万華鏡…ですか」
「何?」
「この心理テストは、買った理由とその品のいいところが、その人に魅力や他人を引き付ける部分が解るのだそうです…」

なるほど。
他人を引き付けるとかなんとか云うのは解らないけれど、それで云うと私は単純で複雑って事なんだろうか。

「ん?祐巳ちゃん?」

何処かボンヤリとした目で、祐巳ちゃんが私を見ている。
一体、どうしたというのか。

「…万華鏡…聖さまは、神秘的なんですね」
「へ?」

どうした?
何がどうなった?

「それに…胸の中に色々と秘めているのかも…」

ちょ、ちょっと待て。
何がどうしてそんな風に考えたんだろう…
解らない。
ホントに、全然解らない。

正直云って、私にしてみれば祐巳ちゃんの方が万華鏡だ。
クルクルと変わる表情とか。
見ていて飽きない。
魅了される。

「…で、このテスト、祐巳ちゃんは何を買ったの?」

自分の思考にちょっと照れて、話を祐巳ちゃんに振る。

すると祐巳ちゃんは、ちょっと残念そうな、がっかりという様な表情でこう云った。


「…期間限定のケーキ…です」


祐巳ちゃんらしくて、笑えた。


この心理テスト、ちょっと信じていいのか悪いのか、解らないな。

ちょっぴり甘めのカフェ・オ・レを飲む祐巳ちゃんを見ながら、思った。

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後書き


執筆日20041020

すいません、実はまだ終わってません。
祐巳が聖さまを心配げに見た理由とか、書けてません…
後程書きます。


えーと、この心理テストは仲良しさんから聞いたものです。
某バラエティ番組でやっていたとか。

そして『万華鏡』は私の答えだったり。
そして祐巳のコメントは友人知人の言葉だったり…

神秘的とか胸に色々秘めてるって何事よ…(茫然)
そしてそれをそのまま使う私(苦笑)


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