確かなこと
(祐巳)

50のお題「香水」をまずはお読み下さい




目が覚めると

そこは聖さまのお部屋
何度と無く、お泊りしたお部屋

だけど、いつもとは違う目覚め
ほんの少し、カラダが重い
そう…腰の辺りが重だるい

…それが何故かは、今の祐巳の状況が如実に語っている

祐巳は、聖さまの腕の中にいて
聖さまの白い肌が目の前にあって

二人とも、何も、着ていなくて

ほんのちょっぴり気恥ずかしい
いつもと違う朝

でも多分
これからはこんな朝が増えていくに違いない
…なんて思った優しい朝

こんなに無防備な聖さまは
祐巳しか知らない







「…ん…?」

聖さまのまつげが揺れて、ゆっくりとまぶたが開いていく。
思わず、祐巳は目を閉じて眠っているフリをする。

「…何時…?」

そう聖さまは呟いて、腕をベッドサイドへと伸ばして、携帯を手に取る。
目を閉じていても、雰囲気が伝わってくる。

今きっと、聖さまは眠そうな目を細めながら携帯の画面を見ているんだろう。

パタン、と閉じる音の後に、コトンという音がした。
携帯がベッドサイドに置かれたんだろう。

あ…髪を掻きあげた。

聖さまの、クセ。
前髪を掻きあげるクセ。
照れてる時や、困ったり考え事をしたりしてる時に前髪を掻きあげる。
さらりと髪を掻きあげる、その仕草が祐巳は好き。

軽い溜息をつくと、聖さまは祐巳の頬に掛かっている髪をスッと払ってくれた。
そして、頬に指を滑らせる。

「…祐巳ちゃん」

優しい声が耳をくすぐった。
…うわ、どうしよう…ドキドキする…

頬から、すぅ…っと指が滑って、首筋から鎖骨へと…
そして、もう片方の背中に回っていた腕が、ゆっくり腰へと下りていく。

ど、どうしよう…!聖さま…!

「こーの狸寝入りがぁ!」
「うぎゅ!」

頬を思い切り摘まれた!

「何やってんのかなー祐巳ちゃんはー」
「せ、聖さま!気付いていたんですかっ」

密着したままで、聖さまの顔を見る。
凄い至近距離。
聖さまのまつげが、触れそう…

「そりゃ百面相してるの見りゃ誰だって気付くって」
「うう…」

自分の顔が憎い…

「おっと、挨拶してないじゃない…おはよう、祐巳ちゃん」
「え、あ、おはよう御座います、聖さま」

ごきげんよう、ではなく、おはよう。
聖さまのお部屋にお泊りした時の挨拶。

軽いキスが唇を掠った。
うわ…なんか、恥ずかしい…

頬が熱くなるのが解る。

自分自身に起こった事だけど……改めて考えると、どうにも恥ずかしい。
全裸で目覚めた事が、夢ではないと祐巳に知らせるけど。
でもなんだか…

そのせいか、思わず聖さまの顔から視線が外れがちになってしまう。
けれどやっぱり聖さまが気付いて少し表情を曇らせた。

「祐巳ちゃんは、どうして私を見てくれないのかな?」
「…恥ずかしいんです…」

ギュッと目を瞑る。

目が覚めた時には自覚があった。
それなのに、時間が経って行くにつれて現実味が無くなって行くのは何故なんだろう。

妙に余韻アリアリなのも困るけれど…

ふいに、聖さまの腕が回ってきた。
素肌に抱きしめられる、感触が妙に艶かしい…

そして、ゆっくりと唇が重なってきた。

「…ん」

深く重ねられて、絡め取られて…祐巳の頭が霞がかった様にボンヤリとしだす。

もう、何も考えられない。

恥ずかしい、とか。
信じられない、とか。

何もかもが。

どうでもいい事。




「せ…い…」

ボンヤリとした頭で、ボンヤリと呟く。

現実味が無いなんてとんでもない。

今全てが『現実』だから。


今、聖さまが祐巳にしている事。

それが『現実』





「…ちゃん…祐巳ちゃん!」
「は、はいっ!」



急に、全てがクリアになった。



聖さまが心配そうに祐巳を見ている。

「ごめん、ちょっと…やりすぎた。酸欠になってたのかな…大丈夫?」

心配する聖さまを祐巳は妙にハッキリしている頭で見ていた。
さっきの様に、恥ずかしくて見られないなんて事はない。
正面から、聖さまを見られる。

祐巳は、この人と一緒に夜を過ごして、朝を迎える。

これから、何度となく。

多分、喧嘩もするだろう。
泣いてしまう事だって、きっと。

でも、全てをさらけ出してぶつかっていけば、きっと大丈夫。

祐巳も聖さまを受け止める。
聖さまも、きっと祐巳を受け止めてくれる。

これは、確かなこと。

うん。



「祐巳ちゃん…?」

そんな祐巳の違いに聖さまは不思議そうな、それでいて不安そうな顔をしている。

「聖さま…好き」
「へ?」

最近聖さまは「へ?」とか「は?」とか云う。
もう聖さまは祐巳の事を笑えない。

「好きです、聖さま」

にっこりと笑って裸の肩に頬を寄せた。


すると聖さまが恥ずかしそうに、ちょっと嬉しそうに祐巳を抱きしめる。

「祐巳ちゃん…?」
「聖さま、お約束かもですけど、夜明けのコーヒーとか、飲んでみたいんですけど、私」



聖さまは、祐巳の提案に照れくさそうに笑った。





加筆修正後、後書き

加筆修正日:20040725

す、少しは良くなりましたでしょうか…
自分では解らないので、宜しければご指導下さい…

これ、今さっき書いた聖さまverと対になってます。
合わせてお読み下さると幸せです。

初めて…の朝って、やっぱり気恥ずかしいものなんでしょうかねぇ…

つーか、祐巳ちゃん結構平然としてますか?
聖さまは内心ドッキドキーだと思うんですけど(笑)



後書き

執筆日:20040724

新たなお題を追加して、初お目見えです。
「恋かもしれない35のお題」です。

一線越えましたし、ね。

50のお題も埋めて行きますけど、勿論。


今回のお話は一線越えの翌日の朝。
祐巳ちゃんverです。
現実味が無かった世界が、聖さまのキスで一瞬にしてクリアな現実になる…ってな事を書きたかったんですけど。

不発!

ああもう修行だ修行!

リベンジは一線越えの翌日の朝、聖さまverで!



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