手を伸ばす
(聖祐巳)





…眠りについた聖さまを、祐巳は微笑みながら見詰める。

もう、雷も雨も、遠くへと行ってしまった。

酷い不安と一緒に。



ちょっと、体が痛い。

でも、それも不安を消してくれる痛みだったりする。

「私にだけは…」

無理矢理笑ったりしないで、自分をぶつけて欲しい…そう思う。

守ってくれようとしているのは、嬉しい。

でも…

それを望むのは聖さまには、酷なんだろうか…?

まだまなじりに残る涙を指でそっと拭う。

「ん…」

微かに声を洩らして祐巳に身を寄せてくる。

その様子が、可愛くて、思わず微笑みを深くする。


起きている時も…こんな風に無防備になってくれたら…









空虚な、感覚。


それが何を表しているのか、解らない。


目が覚めて、横を見て。

ハッとした様に、私は飛び起きた。



「…祐巳ちゃん?」


…甦る、不安。




違う…あれは、夢だった。

多分これも、夢に違いない。



自分以外の気配の無い部屋。

けれど、あの夢とは違う、涼やかな空気。


「…っ」


嫌だ…


私は夢だという事を確かめる為に、ベッドから降りた。



パジャマを羽織って、部屋の中を歩き回る。


こんな自分を莫迦だと思う。


でも、止められない。

祐巳ちゃんの影を探しているのか、それとも…夢の欠片を掻き集めているのか?


「祐巳ちゃん!」


…夢の中では、あそこにいた。

最後の最後に、ベランダを見る。

夢の中では、ベランダに祐巳ちゃんはいて。

手を伸ばした途端に、その姿がかき消えた。



身震いする。

私は…意を決してベランダに近付いた。


ガラッ!

「ひゃあ!」


勢いよくベランダへの窓を開いた途端に声が聞こえた。

「せ、聖さま!驚かせないで下さいっ」
「祐巳ちゃん…何やって…るの?」

思わず、呆然としてしまった。


ここにいた。

夢じゃない…?

私は祐巳ちゃんへと手を伸ばす。

「…聖さま」

祐巳ちゃんが、何かに気付いた様な顔をした。

そして、伸ばした手をキュッと握る。

「…すいません、聖さま…ここにいます」
「…っ」

私は、ベランダから祐巳ちゃんを部屋の中に引き入れた。

そして、少し冷えてるその体を抱きしめる。


「…聖さま…ごめんなさい…」

額を肩に預けてきながら、小さく呟いた。

「なんで謝るの」
「私がいないと、思ったんでしょう…?」
「…夢だって思っただけ」
「夢?」


やっぱり、私は莫迦かもしれない。

でも、それでも、恐かったんだ。

だから、夢だと思い込みたかったに違いない。

祐巳ちゃんが、いないという事を。

「私はいますよ」
「うん…痛っ」
「…ね?夢じゃないでしょう?」


…どこでこんな事、覚えたんだ?

私の手を取って、指にカリ…甘く歯を立てる。


「…夢じゃないね」

『有難う』と『ごめん』を混ぜて、軽く口付けた。



時計を見る。

そんな私に祐巳ちゃんが恐い顔で見ながら云う。

「私だけ、見て下さい」



…時間を気にするのは、止めにしよう。







後書き


執筆日:20040811


スイマセン〜
今は思いつかないけど、ちょっとなんか書き足りない気が…


next『まっすぐ』

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