手を伸ばす
(聖祐巳)
…眠りについた聖さまを、祐巳は微笑みながら見詰める。
もう、雷も雨も、遠くへと行ってしまった。
酷い不安と一緒に。
ちょっと、体が痛い。
でも、それも不安を消してくれる痛みだったりする。
「私にだけは…」
無理矢理笑ったりしないで、自分をぶつけて欲しい…そう思う。
守ってくれようとしているのは、嬉しい。
でも…
それを望むのは聖さまには、酷なんだろうか…?
まだまなじりに残る涙を指でそっと拭う。
「ん…」
微かに声を洩らして祐巳に身を寄せてくる。
その様子が、可愛くて、思わず微笑みを深くする。
起きている時も…こんな風に無防備になってくれたら…
◇
空虚な、感覚。
それが何を表しているのか、解らない。
目が覚めて、横を見て。
ハッとした様に、私は飛び起きた。
「…祐巳ちゃん?」
…甦る、不安。
違う…あれは、夢だった。
多分これも、夢に違いない。
自分以外の気配の無い部屋。
けれど、あの夢とは違う、涼やかな空気。
「…っ」
嫌だ…
私は夢だという事を確かめる為に、ベッドから降りた。
パジャマを羽織って、部屋の中を歩き回る。
こんな自分を莫迦だと思う。
でも、止められない。
祐巳ちゃんの影を探しているのか、それとも…夢の欠片を掻き集めているのか?
「祐巳ちゃん!」
…夢の中では、あそこにいた。
最後の最後に、ベランダを見る。
夢の中では、ベランダに祐巳ちゃんはいて。
手を伸ばした途端に、その姿がかき消えた。
身震いする。
私は…意を決してベランダに近付いた。
ガラッ!
「ひゃあ!」
勢いよくベランダへの窓を開いた途端に声が聞こえた。
「せ、聖さま!驚かせないで下さいっ」
「祐巳ちゃん…何やって…るの?」
思わず、呆然としてしまった。
ここにいた。
夢じゃない…?
私は祐巳ちゃんへと手を伸ばす。
「…聖さま」
祐巳ちゃんが、何かに気付いた様な顔をした。
そして、伸ばした手をキュッと握る。
「…すいません、聖さま…ここにいます」
「…っ」
私は、ベランダから祐巳ちゃんを部屋の中に引き入れた。
そして、少し冷えてるその体を抱きしめる。
「…聖さま…ごめんなさい…」
額を肩に預けてきながら、小さく呟いた。
「なんで謝るの」
「私がいないと、思ったんでしょう…?」
「…夢だって思っただけ」
「夢?」
やっぱり、私は莫迦かもしれない。
でも、それでも、恐かったんだ。
だから、夢だと思い込みたかったに違いない。
祐巳ちゃんが、いないという事を。
「私はいますよ」
「うん…痛っ」
「…ね?夢じゃないでしょう?」
…どこでこんな事、覚えたんだ?
私の手を取って、指にカリ…甘く歯を立てる。
「…夢じゃないね」
『有難う』と『ごめん』を混ぜて、軽く口付けた。
時計を見る。
そんな私に祐巳ちゃんが恐い顔で見ながら云う。
「私だけ、見て下さい」
…時間を気にするのは、止めにしよう。
後書き
執筆日:20040811
スイマセン〜
今は思いつかないけど、ちょっとなんか書き足りない気が…
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