(祐巳)





雨が近いのか、今日は髪がうまくまとまらない。

「うう〜、この髪が〜!」

祐巳は段々半泣き状態になってくる。

今日は聖さまのお部屋に行くのに。
綺麗に髪をまとめたいのに。
なのに髪は言う事を聞いてくれない。

こっちが良ければあっちがピョン。
あっちが良ければこっちがピョン。

もうどうしようもなくなってくる。

いっその事、違う髪形にしてみようか…なんて考えたけれど、いつものツインテール作成でこの状態なんだから、他の髪形なんてもっての他。
余計に時間が掛かってしまうに違いない。

そう考えて、ツインテール作成に再び挑戦。
なんとしても、まとめ上げなくちゃ。



それから30分後。
ようやく髪もまとまり、いつもの祐巳。

…ちょっと、もう既に疲れてしまっているけれど。

よし!

疲れを吹き飛ばすように気合を入れて、お泊り道具一式が入ったバッグを手に、トントンと階段を下りていくと、お母さんに遭遇。

「あら、祐巳ちゃん、今日は遅かったわね」
「うん…髪がね…。お母さん、洗濯物、外に干したら気をつけた方がいいよ。多分降ると思うから」
「そうなの?天気予報では降水確率20%だったのに…」
「その20%が当たっちゃうんじゃない?」

じゃ、行ってきます、と祐巳は玄関へと向うと、何故かお母さんも着いてくる。

「…なぁに?」
「白薔薇さま、本当に祐巳ちゃんを可愛がってくれてるのねぇ…」
「どうしたの、急に」

ほう…と、うっとり溜息をつきながら言うお母さんに祐巳はちょっと引いてしまう。
リリアンOGだけど、薔薇さまとはお近づきにはならなかった一般生徒だったお母さんは白薔薇さま…聖さまの事をとても気に入っている。
殆ど宝塚スターを見るような目だったりする。

「お母さん、白薔薇さまみたいな人の処なら、祐巳ちゃんをお嫁にあげてもいいと思うわ…」
「ななな、何言ってんのお母さん!?」

思わず祐巳は靴を履きながら仰け反ってしまった。

「あら、だって素敵じゃない、白薔薇さま」

事も無げに言ってくれるお母さんに祐巳は口を金魚の様にパクパクさせてしまった。

「ほら、祐巳ちゃん早くしないとバス来ちゃうわよ」
「あ、いけない!じゃ行ってきます!」
「失礼の無い様にね〜」

ドアを閉める瞬間、居間へ行こうとしているお母さんの「ああもう、私がもう少し若かったら…」なんて言葉が聞こえてきて、祐巳は思わず「若かったら何!?」という突っ込みを入れそうになった。




「あはははは!やっぱり祐巳ちゃんのお母様はいいねぇ!」

豪快に笑う聖さまに祐巳は妙に恥ずかしくなってしまった。

「はー、笑った笑った。だけど、嬉しいよね、そういう風に言ってくれるなんて」
「お母さんが若かったらって?」

祐巳がそう言うと、ツボに入ったかのように聖さまは呼吸困難になりそうに笑っている。

「くくく…、いや、そうじゃなくてね…祐巳ちゃんを可愛がってくれるとか、お嫁に、とかさ…?」
「はぁ」
「好感を持ってくれるから出る言葉でしょ?そういうのって嬉しいよ、ホント」

そういう意味か…
うん、確かに、祐巳もそれは嬉しい。

とても好きな人を、家族も好いてくれている。
これって、凄く幸せだと思う。

でもリリアンOGの母を持つと、妙に勘が働きそうで、ちょっと恐い。


なんて事を考えていると、聖さまが祐巳の髪に触って遊んでいる。

「ちょ…聖さまやめて下さいっ!湿度高いせいか髪のまとまりが悪く…って、ちょっと!」
「ごめん、リボンほどけた」
「聖さまの莫迦ぁ!」

折角一生懸命まとめたのに、聖さまに会うから少しでも綺麗にって思ったのに!

ほどけた髪は、湿気を吸っているせいもあってしばりクセがいつもより更に酷い。

「ひーん、聖さまの莫迦…」
「ごめんごめん…ああそうだ、お詫びに祐巳ちゃんの好きなもの、夕飯に作ってあげるから、機嫌直して、ね?」

残った方のリボンもほどいてブラシで髪を梳かしてみるけれど、やっぱりダメ。

「うう〜」
「ほら、何がいい?私が用意してる間にお風呂入ってきたら?髪洗えば直るでしょ?」

確かに、これはもう髪を濡らさないと直らない。
聖さまの提案を飲むのが最良かもしれない。

「じゃ…クリームソースピラフ…」
「了解」

聖さまはポンポンと、祐巳の頭を撫でて立ち上がった。

その料理は、以前聖さまが作ってくれて、祐巳のお気に入りのひとつになっている。
シーフードのピラフの上にクレープみたいな薄いのを乗せて、その上からクリームソースを掛ける。
熱々のクリームソースがスプーンを入れる度にピラフに混ざっていき、絶品。

お風呂に入ってパジャマに着替えようと、バッグからパジャマを取り出そうとした、その時。
祐巳は大きな失敗に気付いた。

「な、無い!」
「な、どうしたの祐巳ちゃん?」

聖さまが驚いて祐巳の方を見る。

「どうしよう…パジャマ、忘れてきちゃいました…!」

髪に時間が掛かって慌てていて、洗濯仕立てのパジャマをベッドの上に置いたまま、忘れてしまった様だった。


「パジャマ」へ続く



後書き

執筆日20040704

「家族」と「髪」で迷いましたが、「髪」にしました。
雨とか湿気が多いと髪ってまとまり難いですよね…
そして、その一生懸命まとめたものをほどかれちゃうと…ちょっと怒りますね(笑)
祐巳リクエストの「クリームソースピラフ」は以前贔屓にしていたお店にあったメニューです。
大好きでしたが、今は疎遠に…今もあのお店、やってるのかしら。


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